「チャンピオン米」の効果
芳楽米店を経営し、「芳楽コメ生産販売専業区」の執行長でもある黄麗琴は次のように説明する。後壁郷の土地は工場による汚染がなく、烏山頭ダムから灌漑用水を引いており、有機農法で栽培している。そのためここで採れた米が全台湾の14のコメ生産販売専業区のコンクールで、農薬使用の安全性、土壌の質、灌漑用水、経営販売などの面で上位に評価された。
この専業区は毎年コンクールに参加しており、評価にパスすると、政府の農糧署から1ヘクタール当たり6000元の運営補助費が支給される。これは農家の教育訓練やブランド推進に充てられるという。
黄麗琴によると、ここのブランド「芳栄禾家米」は知名度を高めつつある。主にネット販売を行なっており、今年は新光三越デパートからもギフトにしたいという注文があり、かなりの量が売れる見込みだ。
黄麗琴によると、以前は卸売商に30キロ入りの袋で売って1キロ当り0.3‾0.5元の利益しかなかったが、自分たちで販売するようになってからは1袋2キロ入りで数十元の儲けが出るようになったという。こうして品質を確保する余裕もでき、農家には一般より高い買い取り価格を保障できるようになった。農家は収入が安定したので協力の意欲も高く、自家製の米を自分で売ることもできて臨時収入も得られるようになった。
「ブランドを打ち立てるのは大変ですが、希望が持てます」と黄麗琴は言う。この5年、専業区の売上は彼女の会社の売上の5%しか占めていないが、95%の人手がかかっている。しかし、生産販売専業区が自分たちの道を開くことができれば、それだけの価値は十分にあると考えている。
台南の農漁業のイノベーションには政府の協力もあるが、町づくりで培ってきた活力も大きな役割を果たしてきた。
例えば、七股篤加村はボラと虱目魚の養殖を主としており、全国最大の150ヘクタールのボラの養殖場がある。以前はボラの季節になると、漁師たちは漁獲をカラスミ業者に売っていたが、売上は多くはなかった。そこで2006年末に、町づくりを推進してきたコミュニティ発展協会が「新鮮な最高級品」という戦略を立てた。漁師たちからボラを買い取り、地元住民を集めて自分たちで魚をさばいてカラスミを作ることにしたのである。業者が冷凍してから作るカラスミとは違い、新鮮な魚から直接作るのでおいしく、ネットで販売を開始したところ、一年で300万を売上げた。
「篤加コミュニティ発展協会」総幹事の邱英哲によると、村民の日当を差し引いても年間30万元の剰余金があり、これはコミュニティ基金として使っていくという。例えば、台南大学と共同で設置した水生植物による汚水浄化システムの維持費はここから出せるし、地域住民200人が出す廃水も回収利用できるという。
農村の美学
台南の豊富な民間エネルギーは農産物の販売だけに活かされているわけではない。販売とは別の「美の産業」という道を開いている人もいる。白河のアーティスト林文嶽は、十年近くにわたって「農村の美学」を提唱してきた。
鹿寮ダムの傍らにある林文嶽の「白荷陶坊」は、陶淵明の描いた桃源郷を思わせる。まったく汚染のない1ヘクタールほどの大地には草花が生い茂り、たくさんの野菜や果物が植えられている。空気は草の香りがし、青い空と白い雲が心身をリラックスさせてくれる。多くの民宿が手の込んだ装飾を施しているのとは違い、白荷陶坊は田園の野趣にあふれており、林文嶽は訪れた人にその「自然」を体験してほしいと考えている。
「大自然は、人が美を感じる感覚を高めてくれます」と林文嶽は言う。台南県の農村は生活のリズムもゆっくりしていて、農村の美学を発展させるのに最もふさわしいと言う。いたるところで鳥や虫の声が聞こえて自然のリズムが感じられ、芸術創作のインスピレーションも絶えることがない。こうした生活の中で育まれる生活の美学は、現代人が追い求めるロハスの境地でもある。
「グローバル化の時代、都市だけにチャンスがあるという迷信は打破されました。農村はソフトな包容力を発揮し、都市がもたらす衝撃を吸収してくれるのです」と話す林文嶽は「農村での起業」には無限の可能性があると考える。その前提は「経済の農村」を「美学の農村」に転換することだ。1本10元のハスの花を、1本100元、あるいは1000元で売れる文化創意商品に変えていくのである。白河を日本の京都のように生活の美を体験する場へと変えることもできる。ただ、この目標を達成するには、まだまだ長い道程を歩まねばならない。
歴史的なつながりしかなかった台南市と台南県が、65年ぶりに一体化した。直轄市「五都」の競争の中で、資源の最も少ない台南が、文化と農業という強みを活かしてその魅力を最大限に発揮できるかどうか、そしてさらには国際都市へと歩み出すことができるか、期待して見守りたい。