半世紀の歴史を持つ台湾の学校給食(栄養午餐)が、最近世界で話題になった。
昨年5月、イギリスの9歳の女の子、マーサ・ペインさんが台湾の学校給食の写真をブログに載せ、「色とりどりでおいしそう」と絶賛したのである。これがネットで世界に広まり、台湾の学校給食が世界中で大きく注目された。
実際、学校給食は全民健康保険と並んで我が国が世界に誇れる奇跡と言える。給食の普及率は99%、給食費の負担は少なく、栄養があって衛生的で、食の西洋化が進む中、児童にとって一日で最もバランスの取れた食事となっている。
時代の変化に連れ、学校給食は地域ごとにさまざまな発展を遂げてきた。
青々としたチンゲン菜炒め、ご飯が進む冬瓜と豆腐の煮物、酸辣湯(スープ)、ニンジンとタマネギ入りの炒り卵、そして旬の真っ赤なプチトマト――イギリスのマーサさんが絶賛した給食は、嘉義市嘉北小学校のもので、698キロカロリーである。
「これは『ベジタリアン給食の日』のメニューで肉類がありませんが、他の日は鶏の照り焼きや豚肉丼、豚の角煮、ハンバーグなどもあります。それを見ればマーサさんはもっと羨ましがると思いますよ」と嘉北小の査顕良校長は話す。

給食は生活教育の一部でもある。ご飯とおかずを盛りつける作業を通して生徒たちは衛生管理とサービスの精神を学び、食後には自分の使った食器を洗う。写真は台東県の成功小学校。
給食のおいしさは、作る人々にかかっている。嘉北小は大規模学校で、生徒と教員合わせて1850人に上り、全員の給食を正午までに用意するために8人が朝7時から働き始める。食材の重さを図り、検査から洗浄、下ごしらえ、調理、盛りつけまで少しも手を抜くことはできない。
嘉北小で17年給食を作っている楊淑美さんは給食チームの中心的存在だ。人気のない料理の味をどうすれば改善できるか、どうすればもっと栄養があっておいしい料理ができるかなど、常に給食のことを考えているという。
例えば、葉物野菜を大鍋で大量に炒めると蒸れて色や食感が悪くなるため、楊さんは必ずゆでてから炒めるようにしている。また苦味のある野菜料理には少量の砂糖を加える。
人工調味料や加工肉は使わず、照り焼きや丼物、ハンバーグなどのソース類も手作りする。茶碗蒸しも日本料理店のように気泡を入れずに滑らかに仕上げる。
5年生の葉育甄さんは、お母さんの作る野菜炒めはべちゃべちゃしていて、給食の野菜炒めの方がおいしいと言う。
もう一つ、イギリスのマーサさんが知らない秘密がある。嘉北小の一食当りの給食費はわずか32元で、イギリスの給食費(2~3ポンド/95~128元)の3分の1に過ぎないのだ。これだけの費用で毎日変化に富んだ一汁三菜が食べられるのである。
安くておいしい学校給食を食べられるのは嘉北小の生徒だけではない。台湾では全国の200万人余りの小中学生が学校給食制度を享受している。
教育部の統計によると、全国には公立の小中学校が3344校あり、給食普及率は99%に達する。病気などで特殊な食事が必要な生徒を除くと、全員が学校の給食を食べているのである。

学校給食の費用は地方自治体ごとに基準が定められており、1食30~55元とさまざまだ。低所得世帯や障害者、家庭の事情のある生徒などは完全無料となる。さらに金門、馬祖、新竹、苗栗、彰化、南投、花蓮の8県市では富裕層も含めて完全に無料で給食を出している。
食材や輸送コストの関係で北部は南部より給食費がやや高く、台北市は1食55元に達する。だが、給食の内容の評価が高いのは中南部の学校で、台北市と新北市では不満の声も出ている。新北市では2年前、複数の校長の給食汚職事件が発覚し、教育界のイメージを大きく損ねた。
北部の給食の評価が低い点については、給食の運営方式から見ていく必要がある。
現在、我が国の学校給食には公設公営と公設民営と外注の3種類がある。前二者は学校の厨房で調理され、従業員と設備管理は公営の場合は学校が、民営の場合は落札した業者が責任を負う。もう一つの外注の場合は、仕出し業者が自社の厨房で調理したものを各学校に配送するという形だ。
教育部の大まかな試算では、全国の7割の小中学校には校内に厨房設備があり、1割は他校の厨房を借りており、残りの2割は業者に外注している。地域別にみると、学校の面積に余裕のない北部の学校では外注が多く、台北市は41%の82校、新北市では63%の177校が外注している。
学校の敷地が広い中南部では、ほとんどの学校が厨房を持っており、台南市は8割の224校、嘉義市では28校すべてに厨房がある。都会の高雄市でも厨房のある学校は多く、外注は8%の28校に過ぎない。

学校の敷地が限られている台北市では、校内に厨房を持つ学校は20%しかない。写真は最新の厨房設備を持つ南湖小学校。
給食の質の良し悪しは、校内に厨房があるかどうかにかかっているようだ。
栄養士組合全国連合会の金惠民理事長によると、自校に厨房がある場合は学校側が調理を監督することができるが、仕出し業者へ外注する場合は質の管理は難しく、業者の利益と輸送コストが加わるため費用は高く付き、給食そのものの質も確保し難いという。
実際、多くの業者が複数の学校に給食を供給しており、毎日数千から数万食を作るため、早朝の4~5時から調理を始める。早朝に完成した料理を昼に食べることになり、変質していないとしても風味は大幅に損なわれることになる。
また、外注する業者は公開入札で決まるが、その過程で不正が生じる可能性もあり、そこで資金が流れれば、そのぶん給食にかけられる実際の費用が減り、質が下がることとなる。
一方、業者の立場から見ると、彼らは学校給食を請け負った場合、一般の民間企業からの注文を受けてはならないルールになっている。そのため夏休み・冬休みや土日を合わせると一年の半分は商売ができないこととなり、経営は難しい。それに加えて入札制度による調整の困難も生じる。
「今年は1万食なのに、来年は7000食しか注文がない場合、従業員をどう調整すればいいのでしょう。調理係の熟練度が安定しなければ、問題を起こさないようにするだけで精いっぱいで、質の向上まで手が回りません」と話すのは、自身も飲食業を営む台北市信義小PTA給食委員の鍾坤志さんだ。
給食を落札した業者は、注文量を増やすために子供たちの好みに迎合することもある。一日6万食まで供給できる新北市のある業者は、メニューにタピオカミルクティやチキンナゲット、ごま団子、フライドポテトなどの加工食品がある日は注文量が著しく増え、その差は1万食に上ることもあるという。

校内に厨房を持つ台南市の大湾小学校で、地元の食材であるサバヒー(魚)のすり身団子のスープを作る様子。
こうした外注のさまざまな欠点を考慮して、教育部は昨年、校内厨房設置補助計画を打ち出した。5年以内に全国の校内厨房設置率を9割まで高めたいとしている。
だが、新北市の林騰蛟教育局長は現実的に難しいと言う。学校の敷地が限られているだけでなく、新北市で給食を外注している177校全部に厨房を設けるには少なくても35億元が必要になるからだ。
そこで新北市では制度面の改革に取り組んでいる。2012年度から給食業者の入札を近隣の3~5校で一緒に行なうこととし、選考委員の人数を増やして資格制限を高め、契約書見本にある「創意フィードバック」という評価項目を削除した。これによってグレーゾーンによる不正が避けられる。
また生徒たちの健康のために、新北市では2年前から朱立倫市長の指示の下、教育局と農業局が協力して校内に厨房のある学校では週に1回、有機野菜を出すこととし、今では103校の5万6000人の生徒がこの給食を食べている。
今年9月から「週に1回、有機野菜」の政策は新北市の280校(外注の177校を含む)で実施されることとなる。新北市農業局に属する三重野菜市場が供給センターとなり、有機野菜の質と量を確保する。
有機野菜にかかる差額(約6000万元)は市が負担し、34万6000人の生徒がこの恩恵にあずかる見込みだ。必要な有機野菜は週に34.6トン、全国生産量の6割に達する。新北市の廖栄清・農業局長は、学校給食という安定したルートの形成が農家の励みになり、無農薬栽培が盛んになると考えている。
有機野菜の導入は生徒の偏食改善にも役立つと見られている。石碇中・高校の栄養士・陳美惠さんによると、中高生の食習慣はすでに形成されているが、「週に一回、有機野菜」を試行して以来、ふだんは野菜を食べない生徒の多くが新鮮な野菜を食べるようになり、食べ残しの量が大幅に減ったという。

子供たちが健やかに成長できる環境を作ることは社会の責任である。
学校給食の質の評価が高い中南部でも、さらなる努力が続いている。
市内のすべての学校が校内に厨房を備えている嘉義市では、給食の全面無料化に向けて努力している。嘉義市の李錫津・副市長は、富裕層を排除しない給食全面無料化は、生徒にレッテルを貼らないためであり、推進する価値のある福祉政策だと語る。
台南市では、医師出身の頼清徳市長の下、去年「学校給食自治条例」が成立した。これは地方自治体が定めた初めての給食に関する条例である。
同条例で注目すべきは、「地産地消」を給食の規範としている点にある。台南市教育局体育保健科の呉国珉;・科長によると、これは「同心円」状に給食の食材産地を選ぶということだ。例えば、柳営区の学校では同区内で生産された食材を優先的に使い、足りない時は塩水や新営など台南一帯の食材を用いる。
だが、台南は葉物野菜の大規模産地ではないため、現地食材の採用比率を高めるには、野菜類の需要量を算出して農家と契約を結ぶと同時に農漁畜産物の産地認証を普及させる必要がある。現在、台南市の現地食材調達率は10%を目標としており、少しずつ高めていく予定である。

地産地消を導入すればフードマイレージ(食品の輸送距離)は短縮され、地元農家を支えることもできるため、政策が実施される前から台南市の少なからぬ学校は自発的に地元食材を採用してきた。例えば永康区の大湾、三村、西勢、龍潭、復興の5つの小学校では給食連盟を結成し、地元食材を大量購入で安く仕入れている。
この5つの小学校の給食費は1食28元で、従業員の賃金や雑費を差し引くと、食材費は18元しか残らない。だが給食のメニューには鮭やイカ、豚足、地元の食材であるサバヒー(魚)の皮や蓮の実といった高価な食材が並ぶ。さらに月に一度は牛乳も出る。
大湾小の楊清蘭校長によると、5校連盟の教員と児童を合わせると5000名近く、このスケールによって価格を低く抑えられるという。
最も安い価格で最良の食材を仕入れるために、5校の給食連盟では毎月価格交渉会議を開き、供給業者48社に食材サンプル提出を求めて会議で評価している。献立は5校が交替で決め、各校の厨房同士も積極的に交流している。サワラのスープや鍋焼き麺など、台湾南部の名物料理を給食に出している。
長い歴史を持つ学校給食は、すでに台湾の学校生活の一部である。給食は子供たちの健康を守るだけでなく、生活教育であり、また農産物の需給調節や社会福祉などの意義も備えている。
質の高い給食を提供するには、地方の長や校長、栄養士、厨房チーム、食材供給者や仕出し業者など多くの人の協力が必要となる。給食は次の世代の心身の成長と競争力を支える希望なのである。

イギリスのマーサ・ペインさんが羨ましがる嘉義市嘉北小学校の給食。
毎日出される学校給食は、台湾社会の60年にわたる大きな変化を反映してきた。
1950年代初期、経済的にまだ貧しかった台湾では児童の栄養は一般的に不足していた。そうした中、ユニセフ(国連児童基金)は1951年、脱脂粉乳を全台湾の151の小学校に寄贈し、これによって台湾の学校に「栄養」の概念がもたらされた。
1947年、台湾省教育庁は、米国のキリスト教救援団体から贈られた物資を屏東県と桃園県の僻地の小学校へ支給して学校給食の提供を開始し、以来、しだいに学校給食を実施する学校が増えていった。
当初の学校給食の多くは無料で供され、その費用と物資は米国や国連食糧農業機関の援助計画によってまかなわれた。子供たちが昼食でより多くの栄養を補充できるという意味で、学校給食は「栄養午餐」と呼ばれるようになった。
1970年代、国際社会において台湾は難しい立場に置かれ、多くの援助が得られなくなり、政府は自ら給食を維持しなければならなくなった。幸い、経済が発展し始め、家庭も子供の給食費を負担できるようになったため、給食は有料化された。
1980年代、台湾は工業社会となって共働きの家庭が増え、子供の弁当を作る余裕のない親にとって、給食は有りがたい存在となった。
この十年余り、台湾の食文化は西洋化が進んで子供の肥満が増えきた。そこで次世代の健康のために、教育部は1997年に「学校給食食物内容および栄養基準」を定め、穀類、根菜、卵、肉魚、野菜、油などの比率を定めた。カロリーも厳しく管理するようになり、小学校では650~750、中学校では850キロカロリーを超えないよう定められている。
2002年、立法院は「学校衛生法」を採択し、40学級以上の規模の学校は栄養士を置いて給食の質を管理することとした。以来、給食は栄養補給という位置付けから抜け出し、バランスのとれた内容であることがより重視されるようになった。

栄養のバランスがよく、量も豊富な学校給食は、台湾の子供たちの心身の健全な成長を支えている。写真は広大な敷地を擁する台東県の成功小学校。

新竹県の和興小学校では、給食の調理過程で出た野菜の皮や芯を集めて堆肥にしている。

給食の注文を受ける仕出し業者は、供給量が多いため、早朝から作業を開始する。

台湾の小中学校の給食は食材が豊富で、安くておいしい。

台湾の小中学校の給食は食材が豊富で、安くておいしい。

台湾の小中学校の給食は食材が豊富で、安くておいしい。

台湾の小中学校の給食は食材が豊富で、安くておいしい。

給食は生活教育の一部でもある。ご飯とおかずを盛りつける作業を通して生徒たちは衛生管理とサービスの精神を学び、食後には自分の使った食器を洗う。写真は台東県の成功小学校。

高雄市の福安小学校では土地を借りて野菜や稲を栽培している。「食農教育」を通して生徒は食に対する意識を高め、感謝の心を培うことができる。