温室効果ガス対策の中で、「グリーン建築」は多くの国の住居・商業主管部門が提出している方策である。台湾におけるグリーン建築推進の歩みは亜熱帯国家の中では進んでいるが、一般への普及はまだ進んでいない。グリーン建築は地球を救うだけでなく、身体にも優しいのだが、一日の9割の時間を各種建物の中で過ごす台湾人は、高価なだけで魅力がないものと誤解している。
車が列を成し、ビルが並ぶ台北の市街地を走ると、緑陰道路のパブリック・アートが目に美しい。新しい金融街の真新しいビルに人々は目を見張るが、グリーン建築家から見ると、いずれも悪い手本ということになる。
例えば台北が世界に誇るランドマーク、台北101ビルは、廃棄物削減という点で不合格だ。成功大学建築学科の林憲徳教授によると、台北101は中国人が好む「花開富貴」の造形を採用し、上に向って末広がりになっている。この構造のために鉄筋使用量は3〜4割も増え「地球の資源を浪費」しているのである。
グリーン建築の「廃棄物削減」という指標から見ると、不必要な造形や不合理な構造による建材の浪費は持続性を無視したものだ。同様の高層建築でもシカゴの金融ビルは構造力学的な効率を考慮しており、建材を3割以上節約した。これこそ今後の建築美学が追求するべき方向であろう。

ヒートアイランド現象が起る都市部では、屋上に緑の庭を設けたり断熱ブロックを敷くことでかなりの省エネができる。
シックビル症候群
台北にはカーテンウォールのビルが並んでいるが、これらも「省エネ」と「健康」という指標において不合格である。
「台湾ではガラス張りのビルが流行していますが、これは高温多湿の台湾の気候には適していません」と林憲徳教授は指摘する。ガラスには温室効果があり、太陽放射は屋内に入りやすいが、室内の長波放射は屋外へ出て行きにくい。カーテンウォールは温帯気候に適した建築スタイルで、亜熱帯では逆に冷房の使用を増やす原因となる。
太陽放射の吸収を減らすために一部のビルでは窓に反射ガラスを使用しているが、これもまた「反射光公害」をもたらす。ガラスが反射する光が運転手の目を刺激し、交通事故の原因となるのである。エネルギー消費の多いカーテンウォール建築において、窓が開かない全室空調の設計にすると、健康にも害を及ぼす。
1970年代以降、欧米で注目され始めた「シックビル症候群」は、ビル内部の空気の質の悪さが引き起こすものだ。のどの乾燥、目や鼻のアレルギー、頭痛、疲労、咳、皮膚のかゆみなどの症状があり、ビルから出たり、週末など出勤しない時には症状が軽くなる。
成功大学建築研究所の調査によると、調査対象者の4割がこのような症状を訴えており、オフィスの3割は空気の質が良くない。二酸化炭素や空中の微生物、有害物質などの濃度はアメリカや日本の基準を上回っている。
観光客が訪れる台北市の中正紀念堂も、グリーン建築の「生物多様性」という指標で不合格とされる。広い面積に芝生が植えられているが、傍らにはきれいに枝葉を刈られた樹木が並び、芝生は他の昆虫と共生できず、樹木は鳥の棲み処にならない。さらに多くの人手を使って樹木を手入れしなければならず、水を浪費し、汚染を出し、生物の生息を脅かす。
林憲徳教授は日本の公園を例に挙げる。日本の多くの公園は喬木や潅木を混ぜた密林方式で、落葉もそのままにしている。ドイツのケルン市役所前の広場や地下鉄駅入口には、美しくないが昆虫やミミズが好む茨が植えられている。開発と同時に環境に生物連鎖を保つことで、小さな生き物が生存でき、生態破壊を食い止められるのである。近年、高雄市のあるマンションでもこうした考えを取り入れている。

住居革命
台湾では亜熱帯気候に合わせてグリーン建築の指標を、生態、省エネ、廃棄物削減、健康の四大分野合計9項目としている。世界中でこのような評価システムを持つ14の国のうち、台湾は唯一亜熱帯に属し、先駆的と言える。ここ5年、グリーン建築は政府の推進の下で注目されつつあり、建築業界の従来の考え方や社会の認識に影響をおよぼしている。
廃棄物削減という角度から見ると、台湾の建築産業が排出する二酸化炭素の量は全国排出量の29%を占めている。建材が9.3%、運輸が1.5%、住宅使用が12%、商業使用が6%だ。建築はエネルギー消費も汚染排出も多い産業であり、不必要な建設を減らすことで二酸化炭素排出量を削減することができる。
アメリカでは木造や石造の住居と鉄骨のビルが多いのに比べると、台湾に多い鉄筋コンクリート建築はエネルギー消費量が多い。鉄筋コンクリートに使われる4割の砂利は河川から無許可で採ってきたものなので原価が安く、建設業者や消費者が好んで使う。逆に二酸化炭素排出量の少ない鉄骨構造は市場が小さく価格も高い。「台湾のセメント消費量は世界第2位で、環境破壊という点では全国民が共犯者なのです」と林憲徳教授は言う。
また台湾では、かつて住宅所有率の高さが社会の安定と富を象徴すると考えられ、不動産投資も盛んなことから大量の空き家が生じている。「私たちは割り箸のように建物を使い捨てしています」と林憲徳教授は言う。古い建物の価値は低いとされ、施工の質も良くなく、住民が建物のメンテナンスに資金を出す習慣もないことなどから、住宅の平均寿命は欧米よりずっと短い40〜50年に留まっている。
さらに「省エネ」の角度から見ると、台湾の建築はひたすら西洋のシャープな造形を追従してきたため、ガラス張りのビルが多い。また高温多湿な亜熱帯にふさわしい「窓外の日射遮蔽」の設計を、建設費を抑えるためにやめてしまい、通風や断熱なども重視しないため、エアコンの電力消費量が大幅に増えている。

ドアを開け放って冷気を外に送り出し、強い陽が照りつける昼間でも入口前の照明をすべてつけている。台湾のデパートや商店では電力の浪費が目立つ。
充満する有害物質
通風の悪さは環境や省エネに関係するだけでなく、人体の健康にも影響をおよぼす。
成功大学建築学科の江哲銘主任によると、多くの建材や家具には製造過程で硬化や接着、防腐などのために多くの化学物質が用いられている。これらの物質は時間と温度の変化に伴って揮発し、人体にさまざまな危害をおよぼす。発癌性のあるアスベストに続き、ベニヤや絨毯などに残留するホルムアルデヒドも空中濃度が一定レベルに達すると発癌性を持つとWHOは警告している。さまざまな有毒物質を排除する最良の方法は通風だ。ホルムアルデヒドの場合、通風時間が長いほど室内には蓄積しにくい。
今年初めに台湾を訪れた北京・清華大学建築学部の江億副学部長は、台湾の多くの住宅の通風が悪いことに気づき、天井の扇風機やエアコンではなく、屋外と屋内の空気を入れ替えなければならないと指摘した。さらに江億氏は、祖先の知恵を忘れないよう呼びかけた。冬は温度を保つために隙間風が入らないようにし、夏は湿度と熱を逃がすために通風に心がけることである。

身体に優しい住宅
江哲銘教授によると、90年代に興ったグリーン建築の流れは、しだいに健康の概念も取り入れ、近年は「建築予防医学」へと発展している。医学生も「健康建築」として人の居住環境の問題を学ぶようになった。現代人は人生の9割の時間を屋内で過ごしているのだから、住居やオフィスの素材や設備、通風、照明などを分析し、改善しなければ病気も治らないのである。
「健康建築」の研究には三つの重点がある。一つは建築物の物理性、つまり現地の気候に合わせた通風、採光、日除け、省エネなどである。第二は化学性、つまり建材や家具が有害物質を出すのを防ぐこと。第三は生物性、つまり室内環境における細菌やウイルスの汚染を防ぐことである。
「将来の持続可能性を備えた設計においては、視覚的美感だけを追求するのではなく、光、音、温度、空気、電磁波などの環境を充分に考慮しなければなりません」と語る江哲銘教授は、我が国の建築学科はまだこの趨勢に気付いていないと焦慮を隠さない。
幸いなことに、政府の積極的な推進の下で内政部はすでに「グリーン建築」の七つの指標を建築法規に取り入れており、今年から段階的に施行される。今後、台湾の新しい建築物は今までより環境に優しいものになる。

外国の少なからぬ公園は人工的な管理ではなく「大自然」に管理をまかせ、落ち葉もそのままにしている。美しいだけでなく「生物多様性」の精神にもかなっている。
中古住宅の緑化
では、最新の建物だけがグリーン建築なのだろうか。いま住んでいる中古住宅は改善できないのだろうか。
内政部建築研究所は、エアコンへの依存を減らすには「建物の外側での日射遮蔽」と「屋上の断熱」の二つの面から着手できるとしている。
「外側での日射遮蔽」というのは、建物のドアや窓の外側に陽光をさえぎる柵や百葉窓などを設けることを言う。台湾の一般住宅では、室内のカーテンやブラインドで陽光をさえぎっている。これは簡単で便利な方法だが、こうした「内側での遮蔽」は「外側遮蔽」ほど太陽の熱をさえぎることはできず、かえって熱を室内に溜め込んでしまう。
だが、外側遮蔽は陽光をさえぎると同時に屋内の採光や通風もさえぎってしまうのではないだろうか。また、屋外で日照と風雨にさらされる遮蔽物には、どのような素材を選ぶべきなのだろう。こうした疑問に対して、内政部建築研究所は『外側遮蔽および屋上断熱設計参考手帳』を発行しており、関係する専門業者や一般市民に提供している。
「屋上の断熱」というのは、屋上を使って太陽熱を有効にさえぎる方法で、例えば断熱ブロックを敷く、屋上に植物を植える、また天上と屋根との間に空気層を残すなどといった方法がある。内政部建築研究所によると、台湾の建物の多くは屋上断熱の観念がなく、ペンキや防水層を塗っただけのものが多い。だが、屋上の平均日照量は壁面の2〜3倍にもなるため、ビルの最上階は暑く、居住の質が劣るのである。
「外側遮蔽」と「屋上断熱」を普及させるために、内政部建築研究所は2002年から公営・民営機関や一般市民に経費を補助している。少し注意してみると、各地の学校や公営機関の多くに、見た目にも美しい外側遮蔽施設が設けられていることに気づくだろう。

引き算の生活
省エネ効果をあげて健康的に暮らすには「グリーン建材」の採用も重要だ。内政部では一年前から「健康グリーン建材」のマークを実施し始めた。第一段階としては最もよく使う合板や塗料、絨毯、ブロックの4種類を管理しており、健康グリーン建材のマークがついているものを選べば、有毒物質による室内の汚染を避けることができる。将来的に検査機器が揃えば、ソファーやキッチン設備などの大型建材にもマークをつけていく予定だ。
特に設備を改造しなくても、グリーン建築の正しい観念を理解して生活習慣を調整すれば、今までとは違う暮らし方ができるはずだ。例えば、なるべく南北の窓を開けて風を通し、エアコンに頼る習慣を変えていく。出勤前にはカーテンを開け、温かい日光を取り入れて室内を殺菌し、窓を開けて風を通す。
消費者基金会の創設者である柴松林教授は、生活に環境理念を徹底的に取り入れている。20年来、新しい洋服を買ったことはなく、その間に古い衣服は少しずつ処分してきたため、タンスの中はすっきりしている。教授は使い捨ての商品も決して買わない。このような「物を減らす」生活哲学によって、柴松林教授の家には空間が足りないという悩みがない。冷房や電灯をなるべくつけないように、読書や物書きは昼間に行ない、夜は訪ねてきた友人とともに向かいの小学校へ行き、運動場の演台に腰掛けて夜風と月を楽しみながらおしゃべりする。
人類はすでに「持続性」を今すぐに実践しなければ壊滅に直面するほどの重要な時期を迎えている。グリーン建築が高価すぎるなどと言っていられるだろうか。

通風と採光の良い環境は省エネになるだけでなく、屋内にたまるさまざまな有毒物質を排除することもできる。(紀国章撮影)



新竹の国賓飯店では空調と照明をコントロールすることでエネルギー費を売上の5.5%から3.1%に削減し、工業研究院から「省エネ優良企業」に表彰された。写真は同ホテル中央吹き抜けの採光・断熱兼防火天井である。

台湾は亜熱帯気候にふさわしい独自の「グリーン建築」評価指標を定め、従来の建築文化に少なからぬ衝撃をもたらしている。写真は台湾で唯一9項目の指標すべてに合格した台南市の億載小学校だ。
