台湾文化への入り口
「私が初めて夜市に行ったのは台湾に来て大学に通っている時で、当時すでに台湾で働いていた母が士林夜市に連れて行ってくれたのです。まったく新たな体験でした」と阮秋姮(グエン‧トゥ‧ハン)さんは笑顔で語る。夜市では食べ物だけでなく生活用品や衣類も安く買え、まだ学生だった阮さんには新たな世界が開けた。ほかの留学生たちも言っていたが、台湾という異郷で学ぶ学生にとって、一人で飲食店に入って食事するのは何となく気まずく、注文するのも簡単ではない。だが夜市では見かけたものを自由に買って食べられ、人の目を気にする必要もなく気楽だった。
阮さんが夫と共同で運営するYouTubeチャンネル「越南夯台湾(Hang TV)」では、台湾とベトナムの文化的出会いをシェアしている。先日はベトナムの友人たちを連れて台北の饒河街観光夜市に行った。そばにある慈祐宮にも参拝し、廟建築に興味のある彼女たちは夢中で廟内の様子をカメラに収めた。そして夜市では豚肉薬膳スープや緑豆餡スムージーなどの食べ物を楽しんだ。
阮さんはほかの国を訪れると必ず記念にマグネットを買って帰り、家の冷蔵庫に貼っている。饒河街夜市に行った際にも、台湾の記念になるようなマグネットをたくさん買い、同行した友人たちにプレゼントした。
ベトナムにも夜市に似たものはあるが、主にみやげ品などを売る規模の小さいものだ。それに比べ、多様な食べ物が並ぶ台湾の夜市はまるで「グルメ博物館」だと感じる。しかも各地の夜市に地元限定の名物がある。例えば基隆廟口のカレー麵、台南の「棺材板(揚げた食パンをくり抜いてシチューなどを入れたもの)」というように。
夜市は文化への入り口のようなものだと阮さんは感じている。世界各地から来た客が五感を通して素早く文化を体験でき、同時に味覚を試される。それは台湾の最も魅力的な部分でもあると。

饒河街観光夜市にはベトナムの特色を出したB級グルメが多くあり、台湾人がベトナムの味を楽しめるだけでなく、台湾在住ベトナム人にとっても故郷の味を懐かしめる場となっている。