台湾人にとっては普通でも
夜市を探索するうちにクーさんは、多くの台湾人にとっては普通のことでも、自身にとっては「信じられない」と感じることを発見していく。台湾に来た当初は臭豆腐のにおいを、誰かが嘔吐したのだろうと勘違いしていた。それが今や平気なだけでなく、その独特の味に魅せられ、各地で臭豆腐を食べてみてその様子を発信するほどだ。外国から友人が来た際にも必ず食べてもらう。
夜市のビーフステーキもクーさんのお気に入りだ。フランスにもビーフステーキはもちろんあるが、台湾のそれは、テーブルに運ばれてくると客が紙ナプキンを胸の前に広げて待機し(鉄板から跳ねる油を避けるため)、それからフタが取り除かれ、ジュージューと音を放つステーキが出現する。それは一種の儀式にも似た、視覚、聴覚、嗅覚、味覚の饗宴だと言える。
台湾料理に対する観察も細かい。クーさんは、台湾料理は食感を巧みに用いることで魅力を増していると指摘する。例えば豚足の煮物にはたいてい干しタケノコか小白菜(ミニ白菜のようなアブラナ科の葉野菜)が添えられるが、柔らかく煮込まれた豚足と野菜のシャキシャキした歯ごたえが食感の変化を生んでいる。また「冰火湯圓」も驚きのスイーツだ。茹でた熱い湯圓(白玉団子)をかき氷に載せたもので、熱さと冷たさが同時にくる食感にクーさんは魅了された。
クーさんの観察は文化の違いにも向かう。フランスでの食事は座ってゆっくり楽しむが、台湾の夜市ではよく歩きながら食べる。自身は一ヵ所で落ち着いて食べるのが好きだとはいえ、台湾に来た友人たちには、食べたいと目に留まったらすぐ買って歩きながら食べるという夜市ならではの自由さを体験してもらう。
夜市で屋台を出すなら何を売りたいかとクーさんに問うと、「クレープ!」と即答した。台湾でよく見かける「フランス式」クレープは実は少しもフランス式ではなく、本当のフランスのクレープの味を知ってほしいというのだ。
彼にとって、夜市はグルメの殿堂というだけではなく、五感の饗宴を楽しめる場でもある。この豊かな体験こそが、台湾の夜市の最も魅力的な「台湾感性(台湾っぽさ)」なのだろう。

クーさんの観察では、台湾料理は異なる食感を巧みに用いるのが得意だ。例えば氷に熱い団子を載せた「冰火湯圓」の重層的な食感に魅了される。

のんびりと歩く人々、強火で手早く炒める料理、昔ながらの味を守る屋台など、どれも魅力あふれる夜市の風景だ。