心は最大の力
今では彼女のスケジュールはいっぱいだ。カウンセラーとして十年以上の経験を積み、これまでにのべ1800人を診てきたほか、600近い団体で指導し、講演や本の出版、ラジオ番組の司会なども行なってきた。その専門性を活かして多くの人を人生を谷から救い出してきたことで、2018年には十大傑出青年として表彰された。
朱芯儀にとって、心理カウンセリングは単なる職業ではなく、生涯をかけて続けたい志でもある。より多くの人に、自分の心の状態を見つめて良い人生を送ってもらうために、他の人より時間や労力がかかってもYouTubeやpodcastなどを通した発信もしている。その番組では、人生の物語や心理学のテクニックを伝え、人生の難関を乗り越えるサポートをしている。例えば、朱芯儀が「手のひらに捧げ持つ」と名付けた方法は、右手を胸に当て、愛する人と過ごした幸福な思い出のシーンを思い描き、その喜びを全身に行き渡らせるという方法だ。毎日これを数分練習することで自律神経がバランスを取り戻し、情緒の安定に役立つ。彼女の暖かい声は、親しい友人のように優しく、聞いているだけで心の中に前向きなエネルギーが湧いてくるかのようだ。
異分野との協力も試みている。視覚障害を持つピアニストの王俊傑と一緒に開いた音楽セラピーのワークショップでは、参加者が自分の心の物語のテーマ曲を作る作業を行なった。かつて人生に迷っている青年のカウンセリングをした時、この若者は「わからない」と書き続けていた。ワークショップで、その若者は王俊傑のピアノ伴奏に導かれて「わからない」と繰り返し歌い続け、他の参加者がそれに合わせて合唱した。そして最後の「わからない」を歌い終えた時、彼は多くの人に理解してもらい受け入れられたと感じて解放されたのである。
もし失明しなかったら、もっといい人生が送れていたのではないかと聞かれたことがあるそうだ。しかし彼女は、目が見えなくなったからこそカウンセリングの道に進み、他者の人生と交わる喜びを知ることができたと語る。かつては現実を拒み、恨んだ彼女だが、今は感謝に満ちている。毎晩寝る前には、その日に出会った人や物事を振り返り、感謝の日記を録音して幸せな気持ちで眠りに就く。彼女がpodcastの番組内で語る「心の思いが変われば人生は無限に広がる」という言葉を、朱芯儀は日々実践しているのである。
障害を乗り越えて天賦の才能を発揮する朱芯儀は、十大傑出青年に選ばれたのに続き、心身障害模範金鷹賞も授与された。(朱芯儀提供)
視覚障害者のためのカヤック体験を行なう「黒暗水手」の活動にも参加した。風雨に負けずに前へと漕ぐカヤックは人生そのものだ。(朱芯儀提供)