良い写真とは?
「一枚の良い写真は、人の目を輝かせ、感動させ、あるいは驚かせ、または舌をまかせるものです」と張照堂は語る。良い写真とは構図や光線、人物の感情などの特色があるものでもいいし、表面には表れない深いメッセージを持つものでもいいと言う。大学時代の張照堂は、迷いや抑圧などを表現した実験的な写真を数多く撮っていた。「学生時代に実存主義やシュールレアリスムの本を読み、風変わりなものを撮っていました。ただ、その後は繰り返しがつまらなく感じ、やめてしまったのです」と言う。
その後、兵役を終えてテレビ局に入るとドキュメンタリーフィルムを撮るようになり、再び写真を撮り始めたが、間もなく壁にぶつかった。以前のシュールレアリスムの概念を用いつつ、それまでとは異なる思考で写実的な写真を撮ったのである。「私たちは撮りたい対象をファインダーを通して捕らえるが、それは頭で設計したものとなる」と張照堂は考え、ファインダーをのぞかずに経験を頼りに撮ってみることにした。すると思いがけず緊張感のある、普段観察している世界とは異なるものが撮れたのである。
「台南芸術大学で教えていた時、よく近くの烏山頭ダムへ散歩に行き写真を撮っていました。このダムの近くにはたくさんの亀裂があるのです」この亀裂を撮る時、普通なら手前に亀裂を、遠くにダムを入れた構図を考えるが、張照堂は亀裂の入った地面にカメラを置き、1メートルほどの距離に焦点を合わせた。そうして撮った作品は、手前も遠方も朦朧としていて、まるで土から顔を出したモグラが見た世界のようで面白い。
澎湖ではこんな写真を撮った。平らなところに高い塀があり、その上に人が立っていて、塀の下にいるもう一人と話をしていた。地面には犬が二匹いる。その二人が話を終えて離れる瞬間、張照堂は急いでシャッターを切ったが、ぶれてしまった。その写真を現像して、張は驚いた。スピードが合っていた白い犬ははっきりと映り、二人の人ともう一匹の犬は動いてぶれている。さらに二人の人と二匹の犬が、絶好のポジションにいて、塀と絶妙な構図を成していたのである。
もう一つの写真は、地面に横たわる豚である。それは矮霊祭で生贄に捧げられる豚で、手足を縛られて横たわっていて、犬が周りをうろついていた。張照堂はこの光景を犬の視線で見たらどうだろうと思い、カメラを地面に置き、焦点を2メートルほど先に合わせてみた。そしてファインダーをのぞくことなくシャッターを切った。それを現像してみると、極めてシンプルな構図に力強さと生命力がみなぎる作品となったのである。
二人の人が話を終えて離れた瞬間、二人と二匹の犬が絶妙なポジションにいて、塀と完璧な構図を形成した。(張照堂提供)