トレーニングプログラムのスタート
熱傷は応急処置の後、傷口を手当てして回復を待つだけではない。真皮に達するⅡ度以上の熱傷は、傷口が治った痕の組織が増殖して、皮膚の表面が厚くなり盛り上がる。関節組織を牽引してひきつれを起こすこともあり、日常生活への影響は深刻である。リハビリ治療を続けなければ、元の生活が送れるようにはならない。
瘢痕組織の増殖は24時間休みなく続き、瘢痕が成熟してようやく止まる。この間1年から2年、もっと長いこともある。だから「圧迫装具」を着けて、適切な圧力を利用して瘢痕を平らにし、瘢痕を軟らかく保ち、成熟にかかる時間を短縮することが重要だ。これは最も基本的なリハビリ用具といえる。従来、中南米の圧迫装具の作製技術は劣っており、子供が着るのを嫌がってしまい、リハビリの効果が上がらなかった。
圧迫装具の製作は既製服とは異なる。患者の傷口と瘢痕の処置に関わるから、考慮する点も多く、医療スタッフの協力が要る。そこで陽光基金会はチームワークで取り組む。リハビリ療法士が採寸・型紙作成、傷口の状態に応じた形と圧力の選択を行い、縫製師が製作する。
しかし中南米諸国では人材が少なく、圧迫装具の製作を縫製師がすべて担う。縫製師は教育程度が高くなく、瘢痕や熱傷の知識が足りない。原始的ともいえる手法で、作りながら学んでもらったと白瑪麗は話す。一般の既製服の方法で圧迫装具を作っても、圧迫が足りなかったり、締め付けすぎて傷口の皮膚を再び傷つけてしまったりするのである。
陽光基金会台北再建センター副主任・宋有礪が中心となり、中南米から来た縫製師の面々は一歩ずつ学んでいった。腿、ひざ、足首の3か所の採寸でズボンは作れるが、陽光基金会の圧迫装具は非常に厳密で、ほぼ5センチごとに寸法を測っていく。成人なら20ヶ所近い周囲寸法を計測する。採寸後は患者の状態に応じて伸縮率を計算し、型紙を作成する。
宋有礪は瘢痕の成因と進行についても解説し、瘢痕の状態と位置に応じた圧迫装具の形式と圧力の選択方法を指導した。例えば、胸の傷口にはタンクトップ型を選びたくなるが、実は腕を包んでいなければ十分な圧力がかからず、胸の傷口の瘢痕ケアには不十分になる。そのため袖のあるタイプが最もよい選択となる。こうしたきめ細かな配慮で、患者一人一人に適切な圧迫装具を作りたいと願うのである。
宋有礪自身は、圧迫装具の製作を学んだとき、服飾が専門ではなかったので、型紙を起こすのが難しかったという。だから高い技術が求められる圧迫装具製作のカリキュラムは、裁縫師にとって大変なことだったと理解できる。これまでにない作り方なので、従来より時間もかかる。仕事の負担が増すなか、学んだ技術も熟練する必要がある。それでも真剣な態度とあきらめない精神で取り組む裁縫師の皆に、脱帽した。
4年のトレーニングを経て、裁縫師の面々は圧迫装具の製作技術も向上し、たくさんの患者の保護者の支持を得た。子供たちは心地よく圧迫装具を身に着けて、遊び、学んでいるという。裁縫師の自信と達成感も増した。「トレーニングは内容が濃くてたいへんでした。でもおかげで、私たちは国で一番の圧迫装具製作の中心的存在になりました」とホンデュラスキリスト教熱傷救助基金のリハビリ主任グラツィアさんは言う。