都市と地方の「関係人口」
地方創生という大きな方向の下、日本の国土交通省は「関係人口」の増加を重要な戦略としている。民間では高橋博之や雑誌「ソトコト」編集長の指出一正らが提唱している。
明治大学の小田切徳美教授によると、「関係人口」とは「地域と多様に関わる人々」を指す。人口減少の著しい地方を支えるために、定期的に地域を訪ねたり、短期滞在したりする関係人口が重視されているのだ。その地域の人口には含まれないが、地域と何らかの関係を持つ人が地域活性化の動力となり、将来の移住人口にもなりうる。
「食べる通信」も関係人口を生み出す方法の一つと言える。「食べる通信」は雑誌の限界を越え、食材や文化の体験を通して、楊妍如が言うように「おもしろいつながりが見出せる」。活気のなかった農村に、消費者と多元的なつながりをもたらすことができるのである。
消費者から行動者への変化は、各編集長がよい例である。一人で南澳へ移住した蒋沛妍は、雑誌を通して東海岸各地の生産者を結び、また南澳へ移住した他の若者たちも編集に参加している。さらに東海岸の特殊性を活かし、彼らは文化体験イベントなども積極的に催し、読者に大地と大海原の生命力を感じる機会をもたらす。
また台北で学校に通う魏暁恩は、「食通信」の縁で農村とつながりを持ち、生物産業伝播‧発展大学院に進学した。「比較的厳格な角度から農業を見ることを学び始めました」と言う。また、彼女は「参加型編集」という概念を打ち出し、編集をオープンにしている。「これは私一人の雑誌ではなく、私が少し早く食通信の概念を知っただけですから」と言う。そこで広く若者の参画を募り、グループで農村を訪れている。
「食通信」の意義は、産地から新鮮な食材と情報が届けることだけでなく、都市と地方の交流のプラットフォームとなる点にもある。都市と地方の有意義なつながりを創り出すだけでなく、衰退する農村に新たな可能性をもたらすものだ。「互いにつながり、交流し続け、この使命のために行動し、互いを守っていく」と高橋博之が言う通りである。
農家の人と一緒に農作業を行ない、その合間に話を聞く。こうした方法を通して、編集チームは農家と深い友情で結ばれる。(「東台湾食通信」提供)
タイヤルの集落では、原始的な方法でシイタケを栽培している。(「東台湾食通信」提供)
「東台湾食通信」の編集チーム。蒋沛妍(中央)と同じく農業のバックグラウンドを持つ陳姿静(左)と蔡山(右)。
慣れ親しんだ台湾のフルーツが企画力を通して新鮮味を帯びてくる。(「旅人食通信」提供)
「学生時代に食通信と出会えたことは本当に幸運だった」と語る魏暁恩。
台湾全土をエリアとする「旅人食通信」は、毎回の企画ごとに楽しい農村の風景を届けている。(「旅人食通信」提供)