工芸科のイメージを変える
学校教育ではかつて九年一貫カリキュラムへの変更で工芸科の授業がなくなったが、教育部の2019年度の教育要綱では、「科学技術分野」の教育内容を情報と生活科学技術の二つの科目に分け、生活科技の中に含まれていた工芸の授業時間数を定め、実際に手作業をすることで工芸の素養を持たせることとしたのである。
工芸科の内容は、木工や陶磁器、植物染などの地場産業と融合させる。例えば、桃園大渓は木製家具の生産が盛んで、木芸生態博物館もあるため、台湾工芸美術学校では教員の育成や児童にふさわしいカリキュラムの設計に協力している。
だが、学校で子供たちにノコギリを使わせるのだろうか。
台湾工芸美術学校では、ドイツのヴァルドルフ学校で5〜12年生に木工を教えて30年になるStephan Johannes Elbracht氏を招いて、木工教員の育成を行なっている。Elbracht氏は最初の授業で、いきなり「斧」を取り出して木材を割ってみせた。これには講習を受けに来ていた工芸科の教員たちも驚き、それと同時に木工科に対する考え方を大きく変えることとなった。
木の香りがこもる教室で、Elbracht氏は、まず木の繊維の香りと質を感じることから教え、自然の素材を使うことの価値を感じてもらうことから始める。そして、木のスプーンを製作する過程で、子供たちにスプーンのラインから伝わるリズム感と軸を理解させるのである。
木でスプーンを作ることで、森林の知識や地域文化、そして製作技術などの知識はバラバラに解体される。工芸課程の重点は、自然の素材を感じ、手を動かすことの価値を知ることにある。そこからさらに手で何かを作ることへの興味が生まれれば、自信もつき、さまざまな可能性が広がっていくのである。
「台湾では工芸の授業は、理科や算数などの主流科目の時間不足を補うための副課程とされてきましたが、ドイツでは木工は主流の科目です」と話すのは、カリキュラム設計に協力する政治大学幼児教育研究所の倪鳴香所長だ。「木工課程は技術を教えるのではなく、木工文化とハンドメイドを台湾社会に取り戻すためのものです。頭を使うのではなく『手と心をつなぐもの』です」と言う。Elbracht氏は子供の心身の発達段階に応じた教え方が必要で、それぞれの段階によって工具も変わってくると言う
しかし、台湾の伝統工芸は職人の高齢化と、製品が現代の生活に合わなくなってきていることから衰退している。変えることの難しい趨勢のようだが、革新的なデザイン思考によって変化を起こすことはできないだろうか。
木工の先生Elbracht氏はドイツから木槌を持ってきた。台湾の工芸科の教員に、子供の年齢によって使用する工具を変えるよう指導する。