「石」を「紙」に変える
バナナの繊維や樹皮など、従来から使われてきた紙の原料と異なり、台南の龍盟科技では「石」から紙を作ることに成功した。硬い大理石で薄い紙ができるのである。
龍盟科技の4000坪余りの工場には、巨大な紙のロールが積み上げられている。少しグレーがかった白い紙だ。一般の製紙工場と違い、ここの工場内にはパルプもなければ、蒸気も見られず、その代わりに石の粉が入った袋が積まれている。これをポリエチレン原料と合わせて紙にするのである。龍盟では年間1万トン余りの石の紙を生産している。
石の紙というのは、製紙技術のイメージを覆すものだが、紙料に石の粉を混ぜるというのは初めての試みではない。かつて、一部の製紙工場では紙の色つやを増すために少量の石の粉を混ぜていた。しかし、石の粉の割合が増えると、紙にするのは難しくなる。
石の粉とポリエチレン原料の完璧な比率を見出すこと自体が非常に困難なのである。龍盟科技の簡良坤部長によると、配合の比率を少しでも間違えると、製品にムラが出来たり、裂けたりする。石の紙を作ろうとする企業にとっては、技術が高いハードルになる。
龍盟科技の梁石輝董事長は、かつてプラスチック製品やその生産機器を製造していた経験が大きく役立っていると言う。同社は石油価格の高騰で原価率が上昇した時、プラスチック製品生産をやめ、石の紙の開発に取り組み始めた。
それから17年、龍盟科技が生産する石の紙はすでに私たちの暮らしに入り込んでいる。レストラングループ王品傘下の陶板屋や、化粧品ブランドM・A・Cの紙袋に使われている他、毎年行われる台北ランタンフェスティバルの干支の提灯にも石の紙が使われている。
石の紙は一般の紙に比べると値段は3倍するが、水や湿気に強く、燃えないため、アウトドアでの使用にふさわしい。例えば、イタリアでは登山用の地図、日本でも防災地図などに用いられている。また、近年は紙表面の塗装技術や厚さの技術に進展があり、オランダの出版社がレシピ本に採用した。「濡れた手でもページが捲れ、油がついてもふき取ることができますから」と簡良坤は説明する。
耐水性のある紙と言えば、かつてはプラスチックの紙が使われていたが、原価が高く、石油価格の影響も受ける。ここに石の粉を加えることで、耐水性が保てるだけでなく、一般の紙のような軽さと柔らかさも保てるのである。
だが、石の紙というのは一般消費者には今も馴染みのない存在である。そこで龍盟科技はクリエイティブブランド「im STONE」を打ち出し、可愛らしいランチョンマットや防水機能のある植木鉢、壁紙などの商品を開発した。今年ドイツのレッド・ドット賞を受賞したばかりのノート「角岩筆記本」は、表紙にも内部にも石の紙を使っており、表紙に触れると感じられる凹凸は、デザイングループが硬くてしっかりした石の紙の特色を生かしたものである。
中国最古の字典『説文解字』の「糸」の部から昔の紙の工法が読み取れる。それから2000年、最新の技術を用いた石の紙には繊維は使われていない。製紙の長い歴史が、ここから書き換えられるのかも知れない。
昨年、台北市立美術館の屋外で開催された「X-site計画:未知の質域」展。強靭な薄繊紙の特徴を生かし、未体験の質感を表現した。(樹火紙博物館提供)
4階建ての樹火紙博物館の1階には、伝統の手漉き紙の作業工程が展示されている。
龍盟科技は製紙技術に新たな可能性をもたらした。石を原料に軽くて薄い紙を作るのである。
龍盟科技は製紙技術に新たな可能性をもたらした。石を原料に軽くて薄い紙を作るのである。
石を粉末状にしてポリエチレン原料と合わせた顆粒。これを使って紙の石が作られる。
紙袋、ランタン、ノート(左)や可愛らしいギフト(上)などに石の紙が使われている。
紙袋、ランタン、ノート(左)や可愛らしいギフト(上)などに石の紙が使われている。