比類ない感化の力
赤い中国服の楽生(演奏)と黄色い中国服の([生(舞)が、大祭の主役である。「楽生は毎年音楽の基礎のない中学一年生を、一年かけて訓練します」と、楽生訓練を30年以上担当し、見守ってきた孫瑞金は説明する。その役割は、最近では台北市重慶中学の生徒が担当している。
釈奠大典の儀式と音楽は宋朝より連綿と受け継がれたものだが、楽団長の孫瑞金は後継者のいない不安を抱える。「孔子を祀る音楽を、私の代で途切れさせたくないのです」と、孔子の末裔ではないものの、受け継がれてきた伝統の継承の重責を孫瑞金は担って来た。そこで、この10年余りは、後継者の育成に力を注ぎ、各地を講演に回って儒教思想を広め、音楽と舞の教育を推進してきたのである。
「子供たちに自己鍛錬の機会となると思い、それが私を支えてくれました」と、暑さ寒さの中も続く訓練が、子供たちの心と体を鍛錬してきたのである。厳しい礼法と音楽の規範が子供たちの心身を感化し、責任感と誇りを育ててきたと、孫瑞金は身をもって感じている。その中には([生、楽生から礼生(儀式を行う)と、学年を追って経験を重ねる者もいて、鍛錬から育まれた誇りが、代々受け継がれてきた。
「ある年の楽生の一人は、中学卒業が危ぶまれていました」と孫瑞金は語る。それが10年余り経って、突然近況を報告する電話があった。どんな経緯があって、道を踏み外しかけた子供が立ち直ったのだろう。「誰に教えられたのか聞いてみると、その生徒は孔子様だというのです。思わず涙が出ました」と語るが、その時、儒学は単なる糸綴じ本に埋もれた知識ではなく、人を覚醒させる叡智だと分かったという。
1931年から、([生はすべて大龍小学校の児童が担当してきた。この87年、途絶えることなく伝統を守ってきた([舞は、その一挙手一投足に決まりがあり、儒学の中庸を示す。視線から足取りまで、静と動の間に心身の鍛錬が表現される。
孔子廟には有名な「孔府菜」の献立があり、「食は精を厭わず、膾は細きを厭わず(飯は精米をいとわず、なますは細く切ったものをいとわない)」の家訓により、厳格に規格を守り、中華食文化の手本となっている。釈奠大典のお供えも古礼に則り、「和」を主軸とする。2007年からは開平餐飲学校の学生が調理を担当しているため、孔子の総料理長と呼ばれるようになった。お供えとして、汁物三種、ご飯物四種、竹器十種、木器十種の二十七種、計189皿の料理が出される。
孔子廟では釈奠大典の古礼に則り「礼(儀式)、楽(音楽)、佾(舞)、饌(供物)」の式次第を整えた。