日本のTVドラマ『Chef〜三ツ星の給食〜』では、ミシュランの三ツ星シェフである主人公の星野光子が、限られた予算と食材の中で腕を振るい、子供たちが驚く最高の給食を作る。

十数年前、イギリスの小学生マーサ・ペインさんが自分の学校の「良くない」給食の写真をSNSで公開し、これを見たイギリス人シェフのジェイミー・オリヴァーとアメリカのミシェル・オバマ元大統領夫人が、もっとヘルシーな給食を提供することを提唱した。さらにイタリアの憲法では、国内の児童が地元の食材を使った健康的な食事をする権利を定めている。ここから分かる通り、学校給食は単なる食事というだけでなく、世界的に注目されるテーマなのである。

台湾の学校給食の普及率は100％に達する。

100％の普及率

台湾の小中学校の給食は1950年代に始まり、教育部（教育省）は1982年に正式に学校給食プランを打ち出した。それから20年後の2002年に「学校衛生法」が交付され、栄養士の監督下で栄養バランスの取れた給食を提供することと定められた。

また、農業委員会は学校給食で国産の、トレーサビリティのある食材調達に補助金を出している。教育部は給食内容基準を定め、給食食材プラットフォームを設け、各校の給食内容を見られるようにしている。財政面で余裕のある自治体では、毎週有機野菜と有機米を提供している。

教育部の統計によると、全国3368の小中学校における給食費は32～50元とさまざまで、弱者家庭の児童には全額補助され、100％の生徒が給食を食べている。

2021年、フランス人YouTuberのKuのチャンネル「Ku's dream」で「台湾の学校給食がフランスの中高生を驚かせる」という動画が公開され、台湾の給食の内容が絶賛された。玉子とトマトの炒め物、煮卵、青梗菜炒め、タロイモ団子、ゼリー、コーンスープという献立をフランスの学生たちが試食するという内容だ。

新北市の秀峰小学校では、積極的に近隣地域で採れた食材を採用している。写真は、栄養士の楊蕊萍（左）が厨房で野菜を整理しているところ。

菜食料理もエスニック料理も

台湾の学校給食では地元の食材を使うだけでなく、時にはベジタリアンフードやエスニック料理も提供する。

「光華」取材班は、大亨食育協会が2018年に開催した給食コンクールで優勝した学校――新北市汐止区、大尖山のふもとにある秀峰小学校を訪れた。かつてホテルやフライドチキンチェーン、病院などにも勤務したことのある栄養士の楊蕊萍は、23年前に秀峰小学校に勤務し始め、8人の「おばあさんチーム」を率い、全校76学級、2098人分の給食を作っている。給食を注文していないのは5人だけで、普及率は99.7％に達する。

当日のメニューは一汁三菜と果物だ。メインは赤身肉のカレー、副菜はキュウリと糸寒天の和え物とほうれん草、湯葉と玉ねぎの入った味噌汁、それにキヌア入りご飯、フルーツは旬のナツメで、別にベジタリアン用のメニューもある。新住民家庭の子供もいるため、エスニックメニューもある。カレーの中身をジャガイモではなくサツマイモにしてナンプラーを加えれば、ベトナム風のカレーになる。

カレーにはウコンと日本のバーモントカレーを使っていて具材も豊富だ。楊蕊萍によると、生徒の家庭が負担する一食当たりの給食費は45元、これに国産の認証食材に対する政府の補助金が10元加わり、予算は55元となる。

政府農業委員会は、学校給食で「三章一Q」の認証を取得した国産食材に補助金を出すようになり、多くの農家が環境にやさしい農業へと転換している。

健康に関わる学校給食

楊蕊萍は私たちを校内の「食べられるランドスケープ」に案内してくれ、続いて教室で栄養教育を行なった。2018年に大亨食育協会の給食コンクールで優勝し、食育教育卓越賞も受賞した彼女は「台湾がん基金会」の「三蔬二果魔法石戦記」という動画を生徒たちに見せ、野菜や果物を摂取するバランスの重要性を説明する。

楊蕊萍によると、子供のための食事は、栄養や味のほかに、色と香りも重要だと言う。フードマイレージや仕入れ原価を下げるため、彼女は学校近隣で採れた野菜果物を購入し、遠いところでは雲林の契約農家から購入している。

給食の時間になると、子供たちはおいしそうに食べ、残す生徒は少ない。おかわりをする生徒もいれば「野菜が好き」と言う生徒もいる。

楊蕊萍は、健康は国力だと考える。良い学校給食は生徒の老化や病気発症を遅らせることができ、それによって国の健保支出も減る。

栄養士の楊蕊萍は、栄養の授業で野菜や果物を多く摂取するための「579」のルールを教える。

校内の農場で食農教育

南台湾の高雄市仁武小学校で栄養士を務める許淳善は、2021年に大亨食育協会が開催する第4回台湾学校給食コンクールで第2位に輝いた。この学校では10年前から環境教育に力を入れており、校内に畑を作り、美濃特産の小ぶりの大根やニンジン、ブロッコリー、ゴマの葉などアブラナ科の野菜を育てている。

私たちが訪問した日、教員の呉佩娟はPM2.5が健康に及ぼす影響について授業をしていた。

授業が終わると、生徒たちはうれしそうにスコップを持って畑に大根を採りに行く。許淳娟が手本を示し、大根の葉をつかんで軽くひねると、大根が抜けた。児童たちは大根を採り、洗ってから厨房に届ける。これを使って午後のおやつ「大根餅」が作られるのである。

この学級が大根を収穫するのは3回目だが、実は初めての成功だった。呉佩娟によると、最初の収穫の時にはカタツムリに食べられてしまい、2回目は畑に塩をまいたが、やはり食べられ、3回目は厨房の指導を受けて、卵の殻で畑を囲ったところ、ようやくカタツムリが入らなくなったのである。「一度は畑で80匹もカタツムリをつかまえたことがあります」と言う。

仁武小学校付設幼稚園主任の張淑敏によると、毎日午前8時に、子供たちは30分をかけて畑の手入れをする。食べ物が簡単に手に入るものではないことを理解させるとともに、大地の生産とのつながりを認識させている。

給食の時間になると、当番の生徒がクラスメートのために料理を取り分ける。

おいしい給食で好き嫌いなし

私たちが訪れた日の仁武小学校の給食は、宮保鶏丁（鶏肉のトウガラシ炒め）、ほうれん草、ミックスベジタブルだった。宮保鶏丁に合わせるキュウリは砂糖をまぶして青臭さを消してあり、こうすれば色もきれいに保てる。鶏肉も下味がつけてあるので柔らかい。嫌いな人が多いミックスベジタブルには澱粉質の多いグリーンピースではなく、タンパク質が豊富な枝豆が入っており、「ミックスベジタブルが一番好き」と話す子供もいるほどだ。

許淳善が組み立てるメニューは、カラフルで味のバランスも良く、専門的な調理方法をとっている。調味料の量も決めてあるので、味が安定している。

子供たちが食べ残す割合が最も高いニガウリやナスも、仁武小学校ではおいしい料理になる。許淳善はニガウリと鶏肉のスープを作り、ニガウリが嫌いな子供でもスープは飲めるようにし、ナスは挽肉とともに甘辛い醤油味にして、ご飯が進む一品にしている。

学校給食は、単に一回の食事であるだけでなく、命の体験と学習でもある。呉佩娟は、子供には好きではない食材も何とか食べるように工夫させる。ご飯と合わせたり、水を飲んだり、少しずつ食べたりするよう指導する。

自分たちで育てた大根を収穫する仁武小学校付設幼稚園の子供たち。

給食による国民外交

昨今は、学校給食が「国民外交大使」となっている。大亨食育協会は日本の学校との給食献立の交換を推進している。茨城県の美乃浜学園の栄養教師である保立貴博さんは、台湾政府から贈られたバナナを用い、台湾の学校栄養士が作った献立を参考に台湾式のフライドチキン、シイタケと小松菜のニンニク炒めなどを作った。さらに嘉義の鶏肉飯に手を加え、手でほぐした鶏胸肉にニンジンやモヤシ、キャベツなどを合わせて副菜を作った。これは生徒たちにも好評で、定番のメニューにすることが決まったという。日本の子供たちは、台湾風フライドチキンとバナナがおいしかったと言い、バナナを持ち帰る生徒もいた。

雲林県の北港建国中学の生徒は、日本の群馬県沼田市の学校から提供された郷土料理の献立を食べた。豆腐飯、和風こんにゃくサラダ、焼き鳥のネギ味噌風味、すいとん汁、そしてリンゴと牛乳という内容で、台湾の生徒たちは「普段の給食の百倍もおいしい」と声を上げた。

大亨食育協会秘書長の黄嘉琳によると、日本や韓国の食は手が込んでいるのに対し、台湾の給食は食材が豊富で、ベジタリアンのための選択肢もあり、貧しい家の子供のケアも整っている。また学校給食食材登録プラットフォームは世界で唯一のものだ。親はネットを通して給食の内容を見ることができ、さらに各界からの監督もあるので給食の質の向上につながる。

日本茨城県の美乃浜学園の栄養教師である保立貴博さんが、彰化県鹿東小学校の生徒たちに、給食の献立を説明する。（李鳳慈撮影、彰化県鹿東小学校提供）

無農薬・有機栽培を促進

農業科技研究院農業政策研究センター副主任の陳玠廷によると、かつて農政部門はCAS台湾優良農産品、生産履歴産品（TAP）、有機農産品などの認証や農産品生産トレーサビリティQRコード（合わせて「三章一Q」）を推進していたが、効果は限られていた。だが、政府が三章一Q農産物に助成金を出すようになってから、農家は「給食市場は大きい」ことに気付き、次々と生産方法を変えるようになった。「有機農法へと変える力の大きさに驚いています」と陳玠廷は言う。無農薬、有機農法への転換において、学校給食が果たしてきた役割は大きいのである。

国連が発表した「持続可能な開発のための2030アジェンダ（SDGs）」には17項目の目標があり、台湾の学校給食はその中の、「飢餓をなくす」「すべての人に健康と福祉を」「不平等をなくす」「持続可能な消費と生産」の目標を実践している。ここからもわかる通り、給食は一回の食事であるだけでなく、社会や文化、経済、環境などと密接につながっているのである。そして、より重要なのは、これが公共の議題となり、市民が実践する集団行動の場となるということだ。

生徒たちはおいしくて栄養豊富な給食を平等に食べることができ、学校も国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ（SDGs）」実践の場となっている。