台湾企業による投資
台湾とフィリピンの経済関係はますます緊密になっている。周民淦によると、2022年、両国間の貿易総額は107.2億米ドル、台湾はフィリピンにとって第8位の貿易パートナーで、輸出相手国、輸入相手国としても第8位である。
30年前にさかのぼると、1990年代に台湾政府は南向政策を打ち出し、多くの台湾企業がこれに応えてフィリピン投資を開始し、その多くがスービック湾工業団地に拠点を構えた。ただ、それから数年後には中国経済が成長し始めて台湾企業を引き寄せ、フィリピンへの投資は減少した。だが、当時フィリピンに投資した台湾企業は今も安定的に成長を続けている。
哈徳森公司(Hudson Outdoor)の蔡昇霖マネージャーの父親は、台湾政府の南向政策に応えてフィリピンにやってきた。だが、蔡昇霖の勤務先は父親の会社ではない。父親が経営するのは家族経営の従来型産業で、売上は以前ほど良くないため、話し合った末、親と子でそれぞれの道を歩むことにした。そして彼はフィリピンの将来性を見込んでここに残ることにしたのだと言う。
蔡昇霖が働いているのは台湾企業で、その親会社はスポーツ用品を生産している。2000年頃、アメリカのブランドから受託してアウトドア用防水バッグを生産してきた。同社の経営者は2012年にまずベトナムに工場を設けたが、2019年にリスク分散のためにフィリピンにも生産ラインを設けたのである。
同社はスービック湾工業団地を投資先に選んだ。「スービック湾工業団地は、かつては米軍の海軍基地があった場所で、深水港なので入荷する側には便利です。マニラ湾の方が船便は多いのですが、その後の陸上輸送にコストと時間がかかります。マニラからスービック湾まで3~4時間はかかります。またこの工業団地全体が免税区なので、材料を調達して加工する当社の場合も保税の手続きが必要ないので、非常に有利で便利なのです」と蔡昇霖は言う。
張哲嘉はフィリピンに来て11年になる。最初は英語の勉強のために来たのだが、そのままフィリピンに残ることにし、今は台湾企業のコンテナを扱う天際物流を経営している。昨年彼はスービック湾台湾企業協会の会長になり、台湾とフィリピンのつながりを深めるために視察団をもてなすなど、忙しい日々を送っている。スービック湾工業団地には現在台湾企業85社が入っており、その従業員や家族を合わせて500人ほどの台湾人が暮らしている。スービック湾から車で1時間半ほどの距離にあるクラーク工業団地にも40社ほどの台湾企業が入居している。2017年からは米中の貿易戦争が始まり、多くの顧客が生産ラインの移転を求めるようになった。これによってスービック湾への問い合わせも増え、将来的にさらに発展する可能性があるという。