多様で複雑な東南アジアの味
「今回の特別展のために、私たちは4つの国から来た新住民を訪ねて話を聞き、会場では7ヶ国のスパイスや料理を紹介しています」とキュレーターの袁緒文は言う。
東南アジアの香辛料の種類は多く、それが料理の風味を豊かなものにしている。会場では、それぞれ缶に入った胡椒、クローブ、タマリンド、シナモン、コリアンダーシード、カルダモン、クミンシード、キャンドルナッツなど10種のスパイスが並んでいる。だが、これらは最も基本のスパイスに過ぎないと袁緒文は言う。この他にも通常、ミント、レモングラス、パンダンリーフ、コブミカン、ノコギリコリアンダー、ターメリック、ガパオなどを用いる。
スパイスやハーブの情報はあまりにも多く、袁緒文は東南アジア各国出身者を訪ねる前に、それぞれの国のスパイス10種の資料を集めたが、話を聞きに行くと、さらに30種類も加えられた上、「もっといろいろあるんですよ」と言われ、もうお手上げ状態だったと言う。
数ヶ国の出身者がそれぞれ挙げる植物は、国によって名前は違っても実は同じものであることも多く、展示ではラテン語の学名を採用し、それに各国の名称を併記することにした。
インドネシア出身の廖転運はショウガの仲間のサンド・ジンジャーが好きだと言う。台湾で料理に使うショウガとは違い、切ると中は白く、かすかにミントのような香りがする。廖転運によると、サンド・ジンジャーは料理に使うだけでなく、薬用もでき、食べ過ぎの時などはすりおろして腹部に塗るといいと言う。ミャンマー出身の馮春燕の父親は、スープに入れたレモングラスを口に含んでいつまでも噛んでいるそうだ。
こうした話からは、彼女たちの故郷への深い思いも伝わってくる。「彼女たちは、スパイスの思い出を語るうちに涙をにじませたり、幼い頃、母親のそばでスパイスをつぶす手伝いをしていたことなどを思い出すようでした」と袁緒文は言う。一人で台湾に嫁いできた彼女たちの苦労と勇気には心を動かされる。
館外の花壇にも数種類のスパイスが植えられていて、実際に触れることができる。写真は左からノコギリコリアンダー、ベトナムコリアンダー、シソ。