森林に囲まれた植物園
宜蘭市を離れて台7丁号線を進み、ネットで事前に入園予約しておいた福山植物園に向かう。植物園へは一本道の狭い急な坂しかなく、体力を消耗する(落石が多いので車でのアクセスがお勧め)。園内は歩くしかない。
福山は、自然保護、研究、教育が三位一体となった植物園だ。1000ヘクタールの広葉樹天然林を有し、見学できるのは約30ヘクタールの範囲だけだが、豊かな生態が見られるので人気が高い。入口にある、はるかな歳月を刻んだ木化石のそばを通り、自然センターに向かう。音や標本の展示があり、科学的な紹介がなされている。福山の森林についてざっと知識を得て、見学規則も知った後、双眼鏡を手に園内の木道を歩く。
まず現れたのは水生植物池で、さまざまな水生植物に覆われた水面が、池の生物に最適な環境を生み、それらを餌とする多様な鳥類も集まる。天気によって池はさまざまに表情を変えるという。晴天の日は木々の緑と青空を映した水面に、ときおりカイツブリが波を立てる。雨の日は霧が立ち込め、雨粒の落ちる水面を水鳥が優雅に横切っていく。研究員の林建融が「冬にはオシドリがここで越冬します。双眼鏡で見ると、求愛期のオスの美しい羽が見られます」と教えてくれた。
年平均降雨量5000ミリ、しかも低海抜にある福山植物園は着生植物の天国だ。「数々の着生植物が貼りついた木は『大樹アパート』と呼ばれ、雨林における大切な共生現象です」と言って、林建融は双眼鏡と拡大鏡で森の「アパート群」と各「住人」をそれぞれ詳しく観察するよう勧めてくれた。数メートル先では数頭のキョンが草を食み、橋を渡れば大小さまざまのタイワンザルが草地に座っていた。水辺ではカニクイマングースたちが尾を伸ばして器用にすり抜けて行った。
柿色に染まった夕日を背に受け、かつてない満足感で山を下った。今回の自転車の旅は、サイクリング道、風景、歴史、建築物を楽しみ、海岸から山へも行った。自然に親しみ、美味しい物も食べ、忘れがたい記憶を残す旅となった。
福山植物園内には多くの野生動物が棲息している。立ち止まり、双眼鏡を手にじっくり観察してみたいものだ。
幻想的な生態池には余所にはない希少な水生植物も多い。黄色い花を開いているのはコウホネの仲間、台湾固有種の台湾萍蓬草(Nuphar shimadai)である。