水に抗うのではなく、水に親しむ
中国文化大学景観学科教授の郭瓊瑩によると、四方を海に囲まれた台湾は海洋国家だが、河川や海の堤防、海岸道路といった大規模建設や公共工事においては安全性を優先させるため、人と海とが関わり合う可能性を断ち切ってしまいがちだ。人間が自然との「対抗」から「共生」へと考え方を変え、公共建設の中で海の生態の美と文化の美を融合させることこそ、真の海洋国家の精神と言える。
郭中端の設計には、まさにこのような特性がある。1986年、彼女は日本留学から帰国し、宜蘭県の冬山河親水公園の案件を請け負った。これが台湾での初めての仕事となり、ランドスケープ‧デザインのスタートとなった。冬山河の水は澄み、台北ではこれほどきれいな水は見たことがないと言う。この河川の護岸工事において、彼女は美しい水の流れを人々の日常のものとし、台湾における公共建設の新たなモデルを打ち立てた。そして今日称賛されている多数のランドスケープ‧デザイン——例えば「小京都水岸」と称えられる台中柳河水岸歩道や、河川を覆っていた蓋を取り除いて整備した雲林渓などのデザインも、すべて郭中端の影響を受けている。
どの事案も、水と深く関わっているというのは不思議な偶然である。台湾は雨が多いこともあるだろうが、「水のあるところが公園になるからかもしれません」と郭中端は言う。秋の日、私たちは彼女とともに新竹の南寮漁港を訪れた。この漁港全体のランドスケープ‧デザインを担当した彼女は、チームと細かいことを話し合い、活発にあちこち走り回っている。とても70代とは思えない活力である。
水は必ずしも人を苦しませる恐ろしいものではなく、親しむことができるもので、郭中端はデザインを通して、この点を人々に伝えたいと考えている。私たちは南寮漁港の広大な草地を越えて、海岸線にはめ込まれた魚鱗天梯に到着した。ここは魚の鱗のような形の階段で、海辺の堤防の役割を果たしている。ただ階段の傾斜は緩やかで美しく、周囲には大量の大きな石も敷いてある。従来のコンクリートのテトラポッドとは違い、海とうまく融合している。「この堤防の傾斜の角度について、私は新竹の水利技師とずいぶん討論しました。この角度を緩くしなければ、人が海辺に降りて来ることはできませんから」と郭中端は言う。何とか論理的に説得し、ようやく思い通りに完成させることができた。
一般市民の多くは彼女の名前を知らないかもしれないが、休日に夕日を浴びながらここの階段に腰掛け、きらきらと光る波や、砂浜で遊ぶ人を眺めている。その穏やかな風景こそ、彼女にとっては最大の称賛と言えるだろう。
郭中端の初期の作品「明池国家森林遊楽区」。木道や眺望台などの人工物が山林に完全に溶け込んでいる。(中冶環境造形顧問公司提供)