栄養面もカバー
従来と異なり、現在の菜食は海外からの影響で栄養成分にも配慮がなされている。例えば加工食品でも、外観や食感だけでなく栄養も重視されている。植物肉製品では多くに鉄分、亜鉛、カルシウムといった成分が添加され、タンパク質の含有量も牛肉に匹敵するほどだ。
台湾素食(菜食)栄養学会の陳婷鈺事務局長は台湾とアメリカ両国の栄養士の資格を持つが、彼女が菜食主義者になったのは、米国留学中にヴィーガニズムの影響を受けたからだ。10年ほど前に台湾に戻った彼女は、台湾のベジタリアンの多くが「殺生をしないこと」に注意を向けるだけで、栄養面での理解に乏しいことに気づいた。
だが時代とともに、健康に注意すべきこと、しかもベジタリアンの場合はかなりの努力を払わなければならないことに意識が向けられ始めた。「自分の健康を維持できないのでは、周囲を納得させて菜食を広めることもできませんよね」と陳さんは笑いながら言う。菜食で最もよく欠乏するのが、肉類に多く含まれる鉄分とビタミンB12、また牛乳などに多いカルシウムだ。
だが気候の温暖な台湾には実は多くの強みがある。多様な食材があるのはもちろん、葉物野菜の種類の多さも大きな利点だ。陳さんは「特に濃い緑色をした葉物野菜から、ベジタリアンは鉄分やカルシウムを摂取すべき」と断言する。中でもホウレン草は鉄分を多く含み、カラシナはカルシウムの濃度が非常に高い。どちらも台湾ではよく売られている野菜だ。
ほかにも、華人の食生活に欠かせない大豆製品は、種類も豊富で多様な食べ方ができる。豆腐、「豆干(半乾燥させた豆腐)」、「豆花(豆乳ゼリー)」、湯葉、油揚げや厚揚げ、また「臭豆腐」「豆腐乳」といった豆腐の発酵食品など、挙げればきりがない。大豆はすべての豆類の中でもタンパク質含有量が最も高く、その次が黒豆だが、どちらも台湾ではよく見かける豆だ。「だから西洋の国と比べると、台湾ではベジタリアンになる難度が低いですよね」と陳さんは笑う。
ほかにも台湾には栄養価の高いスーパーフードが多い。「東洋のオリーブ油」と称されるツバキ油やエゴマ油はオメガ3脂肪酸が豊富だ。これは長鎖脂肪酸で、現代人によく見られる慢性炎症を抑える効果がある。またそれらを摂取することで、外食で摂取しがちな大豆油やサラダ油が含むオメガ6脂肪酸とのバランスを取ってくれる。
陳さんはほかにも、同様にオメガ3脂肪酸が豊富な食材として台湾の野草のスベリヒユを、そしてビタミンCを多く含む果物として台湾原産グアバを挙げる。また、かつて台湾の農村でよく見られた果実で、近年は農政当局によって積極的に栽培指導が行われているユカンは、ビタミンC含有量が極めて高く、優れた抗酸化作用を持つため、フルーツパウダーに加工されることが多い。これも栄養価の極めて高い、優れた食物だ。
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300万人を超えるベジタリアン人口を有する台湾では、安定した客層があることから菜食料理‧食品の種類が多く入手も容易だ。