市場に息づく客家の手仕事
竹東では石油、天然ガス、セメント、木材、ガラス、石炭といった産業の隆盛により、多くの人々が集まった。それに伴い、竹東の青果市場も発展し、かつての小さな市が、今では各地の産物が集まるにぎやかな中央市場として成長した。
深夜1時、竹東市場は動き始める。作業員が可動式のテントを設置し、各店舗は商品の準備や陳列に追われる。地元のお年寄りたちは、自分たちで育てた野菜を持ってきて、市場の中に小さな屋台を出すこともある。黎さんは、こうした「自家生産・自家販売」の小規模な農家の屋台を見分けるコツを教えてくれた。たいてい扱っている品目は少なく、野菜や果物の見た目も卸売品ほどは整っていないが、どれも丹念に手がかけられている。こうしたお年寄りたちは、生計のためではなく、何かすることを見つけたいという思いで市場にやって来て、ついでになじみの客と世間話をしたりする。そうした人情味のあふれる光景は、都会の市場ではなかなか見られない。
竹東市場には700を超える店舗が並んでおり、その中には代々受け継がれてきた客家の手仕事も多く見られる。たとえば「粄(バン)」と呼ばれる客家の伝統的な米粉料理だ。黎さんによれば、これらの歴史は少なくとも200年以上前にさかのぼり、代々受け継がれてきた。祭事の供え物、日常のおやつとして欠かせない食べ物だ。本格的な客家料理を語るうえで、調味料は重要な存在だ。市場には「姐婆油葱酥」という店があるが、商品の油葱酥は、エシャロットを香ばしく油で揚げた台湾の伝統調味料で、家伝の味を活かした手作りの逸品だ。「姐婆」とは客家語で「母方の祖母」を意味し、この名前には、店主の彭立蓁さんが母や祖母の味を受け継いでいるという思いが込められている。彭さんは黒豚のラードと新鮮なエシャロットをその場で切って使うことにこだわる。見た目は黄金色で、香りがふわりと広がり、試食してみるとラーメンスナックのようにカリっとしている。和え麺や茹で野菜との相性も抜群だ。
客家の人々の「物を大切にする心」は、保存食の知恵にも表れている。竹東市場では、客家の定番漬物である酸菜、福菜、梅乾菜の「芥菜(カラシナ)三兄弟」を見つけることができる。これは食材を無駄にしない農家の知恵から生まれたもので、食べきれない芥菜を漬けて保存するところから始まる。1〜2週間ほど発酵させれば酸菜になり、それを日干しして半乾きにし、瓶にぎゅっと詰めて再度発酵させると福菜になる。酸菜を完全に乾燥させて束ねて保存すると、梅乾菜になる。同じ芥菜でも、まったく異なる風味が生まれ、代々受け継がれてきた生活の知恵が、客家料理の魂を形作っているというわけだ。
歩き疲れたら、市場のサービスセンターで一息つくのもいい。そこにはお茶のタンクが置かれており、竹東客家伝統市集促進会の理事長・胡崑龍さんが毎日用意しているものだという。この何気ない親切は、胡さんが子供時代、大おばを手伝って、ヤカンを持って木の下に置き、人々に振る舞っていた記憶の延長だという。今は竹東市場に温もりある風景を添えている。
市場をひと通り見て回ったあとは、黎さんの案内で市場内の食堂に入った。梁記という老舗で、出来たての客家の粄條や、湯気立つ湯圓を味わう。店が毎日煮出しているあっさりとしたスープに、たっぷりのニラと油葱酥が加わり、一口すすれば体も心もほっとゆるむ。もう一品、おすすめは「客家婆菜」だ。サツマイモ、タロイモ、ニンジン、パクチーなどを衣にくぐらせ揚げた野菜の天ぷらのような一皿で、野菜の甘みがしっかり感じられ、油っこくなくて、味わいもボリュームも満足できる料理だ。

日本統治時代が始まってから戦後にかけて、資源荘は竹東産業の繁栄を象徴する場所だった。現在もアイスを売る店が残っており、すっきり甘いアイスバーは多くの竹東人の思い出の味だ。