西洋建築の痕跡
やがて時代の変化や政治指導者の交代を経て、近年は台湾全土で相次いで日本統治時代の建造物が修復・公開されている。それら修復の多くに関わった黄さんは、これは文化部(文化省)の進める「再造歴史現場」プロジェクトのおかげだと言う。こうしてリニューアルした建造物は台湾人だけでなく海外からの観光客も魅了している。
「日本人にとって『懐かしい街の風景』が、日本ではなく台湾で生まれている」と言うのは、日本の一級建築士である渡邉義孝さんだ。幾度も台湾を訪れている渡邉さんは、台湾の文化財保護政策が先進的なことや、市民が歴史建造物保存を支持していることに深い感銘を受けている。「台湾の人々は古い建築に価値を見出し、保存・修復して新たな命を与え続けています。若者も、昔を知るお年寄りも、台湾の歴史を残そうとする知識人たちも加わって……、そこには日本にはないエネルギーがあります」
2016年に初めて台湾を訪れ、訪台回数はすでに20回を超えた。建築士である渡邉さんは、台湾全土に多く残る日本統治時代の建造物をスケッチして記録し、それらを台湾で『台湾日式建築紀行』『台南日式建築紀行』の2冊にまとめて出版した。台湾の「日式建築」を最も愛する日本人建築士と言えるだろう。
おもしろいことに、台湾人が日本風と感じるこれらの建物を渡邉さんは「日本建築とは言えない」と言う。神社や仏閣、城、町家などの日本伝統建築と異なり、これら日本統治時代の建造物は、明治維新後に日本が西洋から学び取ったものの痕跡があるからだ。
黄さんも湖心亭がそれを証明していると言う。外壁が明らかにルネサンスの黄金比に則って建てられているのだ。これはまた、この建物が今日でも美しく感じられる理由だろう。同じ中区にあり、湖心亭からもほど近い台中州庁も、天然スレートと銅板を用いたブルーグレーのマンサード屋根を持つなど、ヨーロッパ風だ。昔風の華麗なラインがパリの雰囲気を感じさせる。