東西文化の衝突
2017年に張堅豪は、ACCアジア文化協会の補助を受けてニューヨークに半年滞在し、韓国、タイ、カンボジアのダンサーと「Boundary」と題する舞踊を発表した。「これまで欧米にばかり目を向けていましたが、ここで東南アジアの深さに気づきました」と言う。それからの彼は東南アジアに目を向けるようになった。2018年には国家文化芸術基金会の「台湾、タイの現代と伝統探求」プロジェクトに参加し、タイのダンサーKornkarn Rungsawanとデュオ・ダンスを完成させた。
「初めて受けたタイの舞踊団の基礎訓練は、衝撃的でした」と語る。常識に合わないような身体の曲げ伸ばしの中で、なお多くの開発の空間が身体に残されていることを理解した。「Kornkarnの身体に東洋的な特質を見ました」と、馴染み深い姿は、自身のダンスを見直させ、身体を媒介として伝統と現代がぶつかる間のバランスを見出すようになった。
この1カ月半の間、張堅豪は踊り、動き、静止し、対話する映像の記録により、生活の中の慣性と重複を取り出し、デュオ・ダンスのテーマである日常を表現した。東洋と西洋との対比にある文化的背景の差異と、身体及び伝統の解釈の相違から、ダンスの本質を省察し、生の純化を突き詰めていった。相互の理解と精神の空想を通じ、身体で重量、温度、速度を表現しつつ、そこから創作のインスピレーションを追い求めた。
思考の方向転換
これまで何回も海外公演を共に経験してきた四兄弟は、母の教えの下にダンスへの情熱を育んできたが、それぞれに異なる方向に発展しようとしている。三男の張堅貴は舞踊劇場の団長を務め、次男の張堅志は芸術プロデューサーを志望、長兄の張堅豪と四男の張鶴千はパフォーマーと、四人それぞれが尊重しながら各自の役割を果す。教育、振付あるいはパフォーマンスと、稽古以外では四兄弟は毎日それぞれ忙しい。
海外での芸術交流プロジェクトの経験から、本質回帰の重要性を体感した。以前のダンスプログラムは幼年期から青少年期の兄弟の成長を描き、観客の感動と共鳴を得ることができた。今回、四人は大人としての兄弟の関係を描こうとしている。兄弟の間でも競争も矛盾もある。稽古に半年を費やし、精緻に磨き上げたプログラムでは、時にソロで、時に隊列を組み、抱き合ったり、戦ったりとそれぞれの役割が入れ替わり、互いに向き合っていった。「私たちはパフォーマーです。ステージでは情け容赦ないライバルですが、切っても切れない血の繋がりがあります」と、ダンスを通じて思考の方向転換を繰り返す。
ステージはゲームのように、音楽に導かれて速やかに切れ味よく即興的に転換し、優雅ながら緊張感に溢れる。長弓舞踊劇場ではダンス・パフォーマンスに限らず、演劇やサーカス、ニュー・メディアなど、ジャンルを越えたコラボレーションを行なってきた。芸術交流プロジェクトで視野を広げた張堅豪は、ダンスを通じて生活体験と挫折を見直し、不断の稽古を通じて、自己と創作に立ち返るのだと自分に言い聞かせている。この精神こそ母が与えてくれた贈り物だと、母に感謝する。兄弟の情を重んじる長弓舞踊劇場は家族の歴史でもあるのだ。