変わらぬ自然と新たな町の姿
鉄道なら新城駅が太魯閣国家公園に最も近い。モダンな姿の駅舎は、立霧渓の浸食でV字型に削られた太魯閣峡谷をイメージしており、駅名は書家の朱振男の筆による。駅構内には、著名な画家、馬白水による絵画「太魯閣之美」を陳彦君がガラスで再現させた大きな作品や、林介文のテキスタイル・アート「織路」が展示されている。
新城老街(古くからの商店街)を散策するなら日本の神社の遺構を残す新城天主堂を訪れたい。100年以上前の太魯閣戦役や新城事件の犠牲者を慰霊するために建てられた新城神社があった場所で、本殿跡には今ではマリア像がたたずんで人々を見守る。新城天主堂のガブリエル・ドゥレズ神父(漢名は戴宏基)は「根が深く張れば木も枝葉を広げることができるように、国や町は歴史を残さなければなりません」と語った。
観光客たちは、140年前に建てられた新城写真館の昔風のガラス戸の前で、SNS用の写真撮影をし、隣の佳興冰果店でレモンジュ-スを買っていく。この写真館の建物を修築し、無料で一般公開したのは、佳興冰果店の2代目店主、楊春旺さんだ。「レモンジュースを買うだけでなく、新城を訪れた人がこの地域のことを記憶に残してくれればと思うのです」と彼は言う。
ほかにも、地域の野球チームの子供たちのためにと、書籍の貸し出しだけで販売はしない「練習曲書店」を開いた胡文偉さんがいる。彼はまた、10年ほど放置されていた旧台湾電力ビルを改装して文化クリエイティブな特色のある「山海百貨」を始めた。ショッピング、飲食、アート展示参観のできる複合商業施設となっている。
こうした人たちは協力し、酸菜(漬物)やピーナッツ、大理石といった地元産業の復興に力を注ぎ、将来は新城に砂金採りに関する博物館を開設できればとも考えている。豊かな観光資源や風景を掘り起こすことで、新城の歴史に新たな1ページを刻みたいと願っているのだ。

楊文欽さんは、黒い砂の混じる砂金を人生の記念にと保存している。