場の魂を呼び覚ます
「場の魂を呼び覚ますことです」古い集落にも合院建築にも、人の集まる場とその精神があるのだが、人々はそうした「一角」の存在や意義に気付いていない。江文淵は新竹北部に位置する「若水会館」を例に挙げる。通りに面した長い塀に幅1.2メートルの小さな門があり、門外のロゴと緑陰が人を迎え入れる。門を入ると土地公(土地神)の祠とその庭があり、かつての農業社会の土地の文化と倫理が呼応している。
そこから角を曲がると、巨大な岩が目に入り、山か小さな村落に踏み入る感覚が味わえる。その先には一般の造園景観とは異なるハーブ園が広がり、食用のサツマイモの葉やトウキ、スイカズラ、パパイアなどが植えられ、鶏が遊んでいる。小さな橋を渡ると、水音が聞こえ、塀の外の車の音を消してくれる。さらに都会では見かけなくなった竈を中心にした一角があり、ここは従業員が食事をしながら鶏に餌をやる場となっている。
江文淵は「古い集落」で受けた感動を手掛かりに「節気建築」のイメージを描いていったという。「散歩の小道」を動線とし、真珠のように小さな「一角」をつなぎ合わせて全体としての連続性のある空間となる。
江文淵の手になる台中大里の「菩提寺」は都会の喧騒の中に静かにたたずむ寺である。完成当初の外観は打放しのコンクリートだったが、今では冬以外は緑が溢れ、時間とともに寺の表情が変わっていく。江文淵は、菩提寺は目で見るだけではなく、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の「五感」のすべてで体験するものだと強調する。
西洋建築は、視覚や形式、黄金比などを重視する「凝固した音楽」であるのに対し、東方建築は建物の立面にはあまり注目しないと江文淵は考える。この菩提寺も「流動する音楽」のように、庭園は奥深さを感じさせ、「覚醒して時間の中で空間を訪ねる」場であり、これこそ「節気建築」が提供する全体的な境地と五感の体験なのだと言う。
江文淵と何傳新が設立した「半畝塘環境整合集団」は、建築業における長年の実践経験を「節気建築」へと統合してきた。建築物が人の生活のニーズを満たすだけでなく、大自然と結びつき、光や影をとともに動き、「天人合一」の境地となることを目指している。
逢甲大学の黎淑婷は、老子の『道徳経』の「人は地に法り、地は天に法り、天は道に法り、道は自然に法る(人は地に従い、地は天に従い、天は道に従い、道はあるがままに従う)」という一節を挙げる。これこそ「節気建築」の、人を本として宇宙の営みの「道」に従うということである。この心に従って「心の居所」を生み出し、「穏やかで逆らわないという姿勢で住居を構築し、人と天との共栄を目指すのです」という。
江文淵は伝統の節気や古い集落に目を向け、全体性と連続性を備えた空間を生み出している。