子供の頃、新竹新埔の古い町並みの横に老樹が生えている一角があった。その中の一本は路地の入口の、空地のコンクリートから生えていて、一本だけレンガ造りの民家に囲まれていた。私はよくその老樹に話をしにいったものだ。木に向ってあれこれ話していると、まるで私の話に応えるかのように枝を揺らして葉を落とした。その木の美しい幹に触れていると、周辺で起きたさまざまな物語を語りかけてくるように感じたものだ。
もちろん多くの老樹は人里離れた野山に生えている。仙人のように清らかな木もあれば、牙を剥くように猛々しく枝葉を伸ばした木もあり、また互いに絡み合い、すでに分けることもできなくなっているものもある。そこには他の野生動植物も共に生きている。「人遊山の楽を知るも、遊山の学を知らず。人生天地に問えば、息息宜しく天地の籥に通ずべし」清代‧魏源の『遊山吟』は、山に遊び、山を知り、それと一体となる趣をよく表現している。
今月の「光華」のカバーストーリ—は、皆様を台湾の森林へご案内する。台東鸞山の「森林文化博物館」を訪ねれば、Long先生が一日ブヌン族としてその文化や暮らしを体験させてくれる。生態学者とともに山に入れば、科学的な方法で森林の生態や現状を計測する方法が分かる。また、勤美グループは生活の美学と大自然を融合させて、現代の桃源郷を創ろうとしている。さらに、生活と生産、生態の理想的な共存を追求する「林下経済」についてもお読みいただきたい。
大自然は創意の源でもあるが、人間が大切に守らなければならない存在でもある。近年は、マイクロセンサーとビッグデータで大気汚染を観測する「エアボックス」や、台北大稲埕で始まった文化ガイドツアー「島内散歩」などに見られるように、台湾の環境や文化への意識が高まっている。また今年は台湾のスタートアップを推進するシンボルStartup Island TAIWANが打ち出され、台湾のスタートアップのイメージ向上が期待される。
毎年台北101で行われる大晦日のカウントダウン。その前後のMRTの混雑を緩和するために、東南アジア出身の労働者が自発的にボランティアとして働いている。出身地を問わず、この土地に対する求心力は高まっている。私にとっての故郷の老樹と同じように、台湾にはさまざまな共通の記憶がある。「旅の道すがら/ゆっくり語る話がある/人の温かい地がある/その名を台湾という」と、桃園国際空港の出国通路に飾られた書家‧朱振南の作品に書かれている通りである。