V2Xで安全な社会に
2023年、イノベーションに長けたアビシェークさんはIoT(モノのインターネット)技術をGPSと組合せて車の走行距離や監視システムに応用し、AIによる支援も取り入れた。
太思科技のこうしたV2X(車と外部要素をつなぐ通信技術)はすでにインドで65%の市場シェアを誇る。アビナヴさんが例を挙げてくれた。例えば鉱業会社は、ドライバーがこっそり石炭を売ってしまうのを防ぎたいし、トラックやバスの会社は、走行中の居眠りや危険な運転を管理できればと考える。そこでV2Xを使えば、ドライバーの勝手な行動や危険運転も察知できて安全を保てるし、保険会社への補償請求の根拠にもなる。
何董事長によれば、バスなどでの痴漢や暴行防止のため、インド政府は公共の乗り物にはGPSの搭載を義務付けたが、現時点では大型バスに限られている。「乗客を運ぶ車両には大小に関係なくV2Xと連携するGPSシステムを搭載するよう、インド政府に提案したい」と何董事長は言う。
人口とテクノロジーの強み
では何董事長が後悔したこととは何だろう。当初SIMカードを銀行に売ろうとした際、10米ドルのカードを2米ドルに値切られ、利潤が少なすぎると断った。だが今思えば3億人のユーザーを取り逃がしたことになる。アビシェークさんも「人口の多さは我々の強みで、また世界に広め得る革新的テクノロジーもあります」と言う。
約30ヵ国を旅したことがあるアビシェークさんは、オフィスの壁に飾られたマハトマ‧ガンジーの大きな写真を指差し、「ガンジーは私のヒーローです。外国に住み、世界をよく理解していましたが、インドに戻ることを選びました。鍋の中でぬるま湯につかり、徐々に熱を加えられて死んでしまうカエルのようになるなと、インドの人々を目覚めさせたのです」と語った。
「ガンジーの偉大さに比べると私はちっぽけですが、私がインドに戻ったのも、インドにはまだ改善すべきところが多くあることを知っているからです。でも我が国の強みが何かも私は知っています。私の仕事がその強みをさらに強化できるよう、そして誰もが自分の力を発揮できるよう手伝うことができればと願います」と、アビシェークさんは祖国への変わらぬ思いを語る。
駐インド台湾代表の葛葆萱氏は「インドにはさらに多くのアビシェークやジェイソン(何俊炘さん)が必要で、そうすればインドはもっと良くなります」と言う。デジタル技術での台湾との協力を通じ、インドは発展の道を歩んでいる。