言語は大地とのつながり
サンプーイは多くの音楽映像を集めているが、その中で特に好きなものはと聞くと、ヒマラヤの民族の放牧風景の映像を見せてくれた。真っ白い雪景色を背景にした映像には音楽もナレーションもなく、羊の首につけた鈴の音と人の息遣い、風の音しか聞こえない。
「これが彼らの生活で、どのように撮っても素晴らしいと思います」と言う。こうした民族の伝統的な生活は、彼に台湾先住民の昔の暮らしを想像させる。かつて、ブヌン族もタイヤル族も放牧を行なっていたのだが、日本統治時代に、政府によって集中して居住させられたため、この伝統は失われてしまった。
伝統に対する想いはサンプーイのアルバムの言語にも反映しており、どのアルバムにもプユマ語が使われている。「言語は大地とつながる最も重要な要素で、言語を失うことはその土地を離れることに等しいのです」と言う。彼は失われつつある民族の言語、すなわち無形の世界遺産を保存するために、他の先住民歌手と話す時も民族の言葉を使うという。
集落の若者も民族の言葉をあまり話せなくなったが、それがアルバムの売上に影響することは心配していない。「やるべきことをやるだけ。市場の事は心配しません」と言う。確かに、売上は問題ではない。デビューアルバムは3度目の増版、2枚目のアルバムも増版されていて「言語を超える感動」が広がっていることがわかる。
「言語は、何かを知ろうとしない言い訳に過ぎません」と言うサンプーイは例を挙げる。現在の若者は、韓国語はできなくても韓国語の歌は聞く。それはメロディや背後にある態度に惹かれるからなのである。
先住民言語を知らない人々に対して、サンプーイは「音楽は、そのまま感じればいいのです」とアドバイスする。これは彼が歩んできた音楽創作の理念そのものなのである。
2013年のコンサート「力量」では集落の精神を表現し、皆で一緒に歌い踊った。
サンプーイは集落を離れて暮らす今も大自然を愛し、バイクで海や山へ出かける。(荘坤儒撮影)