
文化産業の時代が来た。
台湾は文化クリエイティブ産業の発展に力を尽くし、ソフトパワーで競争力を活性化しようとしている。しかし、台湾の文化界と産業界との間には常に理念の相違が存在する。文化の土壌を育てるのか、それともクリエイティブ産業に集中するのか。文化と産業のどちらが先なのか、ビジネスが文化を凌駕してしまうのか。
こういった討論の中から、国際的には文化産業のコンセプトが提出され、社会的企業の精神を取り入れて、起業家たちは文化クリエイティブ産業のステレオタイプな印象を抜け出し、対外的に自己を主張し、文化と収益、企業の三者を正当に結びつけようとしている。
多くの人が台湾の多様性からビジネスチャンスを探ろうとしていて、新しいニーズを生み出しつつ、古い伝統を守りながらも、新しいトレンドとビジネスモデルを形成しつつある。こういった文化産業の起業家にとっては、企業の価値は、生産額を生み出すこと以上に、国民総幸福度指数にどれだけ貢献できるかにある。
2014年の旧正月、台湾は好天に恵まれ、春の日に誘われて、台南市後壁区の土溝農村美術館を多くの人が訪れた。
この美術館は台南芸術大学の卒業生・陳昱良と黄鼎堯らが開設したもので「田畑こそ展示場である」と謳っている。田畑や集落の中に散在する農家の日常的な農耕器具は、生活の中のインスタレーション作品となり、田園の趣を湛えている。ここに遊ぶ観光客も農家の日常に合わせなければならない。夕方は午後4時になるとすべての室内展示が終了する。農家は日の入り前に仕事を終えて、夕餉の支度にかかるからである。
ここに来たからには、見学者は有料のイベントに参加できるし、また「優雅農夫」ブランドの文化グッズをお土産に楽しい思い出を持ち帰ることもできる。陳昱良と黄鼎堯の理想は、この町づくりの理念を南部のその他の農村にも広げて自給自足の文化産業を形成し、今後10年をかけて、優雅農夫ブランドによって多くの中小企業を結びつけ、芸術グループを作り上げることである。
もう一つの文化産業の現場は、旧正月後の台北にある。信義区のデパートが旧暦1月15日の元宵節に合わせて実施したイベントがそれで、中華民国視覚芸術(ビジュアルアート)協会(視盟と略称)が企画実施を担当した。視盟は台湾の現代アーティスト23人を招き、絵画、彫塑、空間インスタレーション、マルチメディアなど、多様な手法で午年にちなむランタン作品を展示した。
にぎやかな人混みの中に現代アートが入り込み、芸術がビジネスとなるという重要な意義を示した。視盟は今回の元宵節のイベントを、「企業芸術物流サービス」計画の知名度確立の場とみなし、台湾公益団体のトレンドとなっている社会的企業モデルによって安定した収益を上げ、アーティストの知名度を高めたいと期待している。

九天民俗技芸団は台湾の陣頭(廟の祭りなどで披露される芸能)を劇団化し、学校を中途退学した若者に働く場を提供し、持続可能な経営を実現している。
「優雅農夫」や「視盟」と同様の文化産業の起業家が、台湾に大規模に生まれている。この文化産業の推進力として、起業家の内在的な認識と外在環境の有利性の二大要素が考えられる。
主観的認識としては、国際的な文化産業の新コンセプトが考えられる。
アメリカの学者マーティンとウィッターはスタンフォード大学の「ソーシャル・イノベーション・レビュー」誌において、文化産業企業と社会的企業を論じている。それによると、両者は似ているものの、社会的企業はマイクロファイナンスや太陽エネルギーなどの事業で資本主義の不備を補うものであるのに対して、文化産業の企業は社会の価値体系を転換して、文化の課題に解決を求めるものであると定義づける。文化産業のコンセプトが提唱されるようになり、ここから起業家は一般の支持を受けて、投資を集めることができるようになる。
「国際的研究が進み、台湾の文化産業の起業家には追い風となりました」と世新大学パブリックリレーション・広告学科の駱麗真准教授は話す。だが、台湾の文化産業向け企業団地は商業化に傾き過ぎていて、ハードはあってもソフトを欠く現象が見られる。このため、クリエイティブ産業と聞くと文化関係者は警戒心を隠さない。張大春、林谷芳、厳長寿等の文化人は、クリエイティブ産業に疑念を抱き、文化産業を好まない。
しかし駱准教授によると、地域再生活動や文化保存、芸術創作などに携わる人々は、文化産業という理念を掲げることで、主観的には金がらみのビジネス臭から抜け出せ、また起業により適者生存の競争を意識し、理想を追い求めながらも収益を確保し、知的財産を守り、ブランドを確立する可能性を探すのである。良い事をするからと言って、社会的弱者としてではなく、文化産業チェーンを形成することで企業として強靭となり、政府補助に過度に依存することもなくなる。

視覚芸術協会(視盟)は台湾最大のアート作品データバンクで、企業や一般からの注文を受けて公共スペースにアート作品をリースする。写真はアーティスト除永旭の作品「2010-39」。
外在的環境から言うと、2014年には店頭公開センターがマイクロ企業の設立資金調達の場としてベンチャーボードを開設した初年度である。このボードによりマイクロ企業でも資金を公募できるようになり、政府は法律、会計、経営などの指導を行い、起業家に専門の経営技術を取得する場を与え、また企業の宣伝効果も上がっている。
政府文化部は国家文化芸術基金会(国芸会と略称)を設立し、クリエイティブ産業向けにもう一つの場を作った。芸術文化の環境を整えるには、企業経営とビジネス思考を考慮に入れ、積極的に市場を開拓しなければならない。創作の価値を広めて、健全な産業チェーンを構築するためである。2013年に初めて芸術文化社会的企業の革新育成計画を展開し、パフォーマンスとビジュアルアート、文化観光、その他のマイクロ文化事業の三分野で、芸術文化精神と新しい経営思想を兼ね備えた11の企業と団体を援助することにした。
人材面では芸術教育に成果が見られる。
視盟の理事長で彰化師範大学美術学科の呉介祥准教授によると、芸術大学と総合大学の芸術関係学科が多くの学生を育成してきたという。また起業育成センターを設立しキャリア計画について考えさせ、大学周辺の地域でフィールドワークを行ない、実習すると共に市場の発展やビジネスチャンスを見出し、文化産業に新しい人材を提供してきた。
台南、台中、新竹などには、美術学科卒業生が経営する半営利のギャラリーが出現し、若い世代は提携の形で助け合い、創作しながら地元の芸術文化に刺激を与え、活力に満ちている。
こうして台湾の文化産業は多様化し、想像をかき立てる場となっている。その内容は集落運営、文化観光、アート・バンク、ギャラリー、パフォーマンス団体など多様な形態をとっている。中でも集落経営とアート・バンクが最も注目を集めている。

「優雅農夫」が企画する農村文化の旅は、消費者や学校に好評を博している。
集落保存がトレンドとなっているが、保存した後どう活用するかが文化産業の大きな課題である。
台南市後壁区の優雅農夫グループは、わずか数年の間に耕芸耘術、田園野趣、無限回声の三社を設立し、それぞれが空間芸術、文化観光と音楽創作の業務を行っている。この三社で1600万元以上の売上を上げて速やかに損益分岐点に到達し、利益を上げ始めた。台湾の文化産業を志す起業家にとって、この三社の実例は、まさに格好のロールモデルとなっている。
2002年に台南芸術大学建築芸術研究所の学生だった陳昱良、黄鼎堯らが土溝村に地域運営の実習に出かけて、地域との縁が生まれた。2009年に兵役を終えてから二人は起業を考え、この土溝村で優雅農夫ブランドを設立し、農村のブランド化を開始した。この地の農業と芸術的な造園を結びつけ、土溝村を有名集落にプロデュースしたのである。
陳昱良は学生時代に土溝の地域運営の活性化に参加し、伝統的な台湾の農村に見られた水牛のイメージを用いて、牛車パレードや水牛公園などのイベントを行い、地域活性化の経験を積んだ。お年寄りたちも絵筆をとって、かつての田園の思い出を記録した。芸術的な雰囲気が伝統的住宅の三合院や倉庫や田野に漂い、土溝村は誇りを取り戻し、観光振興にもつながった。
この農村活性化の運営モデルは、雲林県の水林、口湖などに広がり、新しいキャリアモデルの可能性を目にした台南芸術大学の後輩が次々に優雅農夫に加入するようになった。そこで耕芸耘術を親会社として後輩に資金協力して起業を進めていき、わずか5年で農夫ブランドのグループ各社は正社員10名を数えるようになった。
陳昱良は夢をこう語る。文化産業によって台湾の中南部の農村と漁村を活性化し、集落ごとに1社以上の文化産業企業を設立することで現地に雇用を生み出し、若者を故郷に惹きつけたいのである。しかも、こういった企業と企業の関係は競争ではなく、互いに協力する芸術連盟なのである。「そうなれば、起業家は田園に自分の田畑を持ち、工作し、花を植えられます。台湾はどこも生活に快適な場となるでしょう」と彼は語る。

陳昱良(左)と黄鼎堯は台南芸術大学を卒業し、台南の後壁土溝村でアートと農村を結び付ける「優雅農夫」ブランドを打ち立てた。
優雅農夫が生活の芸術化を目指すなら、視盟の起業芸術物流サービスは芸術の生活化を図る。
視盟は台湾最大のビジュアルアートのグループで、芸術家、キュレーター、評論家、学者など会員800人を擁する芸術関係者のデータベースである。芸術を日常生活に持ち込み、視盟の独自運営を目指して、企業芸術物流サービスを開始した。
視盟の呉介祥理事長によると、視盟の運営経費は年間1000万元を超えており、会費と政府の補助金以外に、継続的経営のための財源が必要であるため、収益力が見込まれる企業芸術物流サービスの推進がここ2年の目標となった。
その提唱する企業芸術物流サービスとは民間の芸術品銀行(アート・バンク)であり、芸術品の売買市場以外に賃貸借市場を開設し、企業と芸術品の仲介サービスを提供するものである。2014年の利益目標は250万元としている。
最近の台湾の企業は、事務所やモデルルーム、ブティックホテル、銀行の応接室、ブランドのショールームなどに装飾の芸術品を必要としているが、企業イメージにふさわしい芸術品の選択に悩んでいる。そこで視盟は最大のデータベースという優位性から芸術品を選び、リースで企業に提供することで、芸術センスを育て、コレクションに結び付けていこうというのが狙いである。
芸術品リースは最初の一歩で、台湾現代アートに一般的空間での展示の場を提供することで、芸術と企業や一般の人との距離を縮め、最終的には一般家庭にも芸術品が入り込み、コレクションが一般に受容されることが目標という。
「これまでのイメージでは、人体彫刻や前衛的なインスタレーションは人を驚かしたり怖がらせたりするので、企業は好まないと言われていました。しかし、芸術物流サービス計画を実施したところ、実は多くの企業は奇抜で目立つ作品を飾って、自社の革新精神を表現したいと考えているのがわかりました」と呉介祥は言う。
企業によってはさらにカスタマイズしたサービスを希望するという。たとえば元宵節のイベントでは新光三越デパートが主催者となり、視盟が企画を担当して台湾現代アーティスト23名を招き、イベント向けに午年の芸術作品を作成した。作品所有権はアーティスト側にあるが、デパート側は展示後に興味があれば購入できる。イベント中はデパートが一部の画像の使用許諾を受け、周辺商品を制作して販売や見本として利用できる。
マンションなども、この芸術品リースに興味を示している。台北市中山区に位置する亜昕首蔵マンションは、積極的に視盟と連絡を取り、マンション向けに風格があって趣味のいい絵画をリースし、公共スペースの雰囲気を高めている。
「オランダの芸術家ホフマンが制作した黄色いアヒルは、台湾で大変人気となり、多くの人が見に行きました。これも台湾では一般の人が芸術作品を受け入れるようになったことを示します」と、呉介祥は話す。アート・バンクによる文化産業の起業計画に自信を深め、文化と収益性を両立させることも夢ではないと考えている。
世新大学パブリックリレーション・広告学科の駱麗真准教授は、比喩的に文化産業とは一つの名詞で産業のタイプを指すものだが、文化産業の起業とは無から有を生み出す行動と実験精神を指し示す動名詞だと説明する。
それによると、芸術文化団体は計画を作るだけで国家頼み、政府の補助金に頼るというのではなく、最終的には自立を目指さなければならない。芸術文化団体に起業家精神と覚悟があれば、文化の底にはビジネスチャンスの流水が滾々と湧き出ているのに気づくだろう。集落保存であれ、遺跡の活性化や利用であれ、あるいは芸術創作でも、食の理念でも、文化とビジネスとは相互補完できるのである。保存と革新の二つは、どちらも優秀なビジネスとなりうる。日常の生活の細部を熱愛しながら、大きな幸福が実現できることだろう。
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文化産業の起業が盛んになっている。起業家も社会団体も、台湾の多様な文化の中にビジネスチャンスを見出し、持続可能なビジネスモデルを確立しようとしている。写真は、企業芸術物流サービス(アート・バンク)を運営する視覚芸術協会(視盟)がデパートの依頼を受けて企画した午年のランタンフェスティバルの様子。

アーティスト李民中のランタン作品「愛と平和」。
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視覚芸術協会(視盟)の呉介祥理事長(右から3人目)が率いるチームはアート・バンクのビジネスモデルを確立した。