イラストレーターの育成
絵本出版には、多彩なテーマとプロの編集チームが欠かせない。作品の内容は自由に想像を膨らませればいいが、技法や色遣い、ストーリー構成、オリジナリティなどには、しっかりとした基礎がなければならず、それがあってはじめて創意が活きてくる。編集者は監督のような存在なのである。
鄒駿昇は、海外の出版社との経験を例に挙げる。外国の出版社ではイラストと文章それぞれに別の編集者がつき、専門的な意見を提供してくれる。プロのイラスト編集者はアートディレクターのような存在で、的確なアドバイスをくれ、時には議論になることもある。
我が国の児童書の国際競争力を高めるためは、こうした編集能力を学ぶことも非常に重要だ。そこで、台湾絵本美術館では、国際出版品プロジェクトを企画した。海外のコンサルタントを招いて、制作中の3つの作品を現場でコンサルティングしてもらうというものだ。これを通して企画中の作品を世界の市場と結びつけることができ、台湾の編集者も学ぶ機会を得ることができた。
柯倩華によると、何回かのコンサルティングを通して、台湾の作家の限界が明らかになったという。その一つはターゲットとする読者が不明瞭なことだ。世界の読者をターゲットとするなら、台湾特有のテーマを全面に打ち出したものでは受け入れられない。柯倩華は、よい出版物は三つの条件を備えていなければならないと考える。「文化的特色があるが、それが障壁とならないこと」「オリジナルの芸術性」そして「古いテーマに対する新しい角度からの解釈」である。
柯倩華は林小杯の作品『喀噠喀噠喀噠(おばあさんのミシン)』を例に挙げて説明する。ある少女が、舞台で着る衣装をおばあさんに縫ってもらうことにした。ところが舞台に立つ前日にミシンが壊れてしまい、女の子は悲しくて泣いてしまう。しかし、おばあさんは徹夜で手縫いしてくれ、衣装は無事に出来上がる。普通のお話ならここで終わるのだが、この物語は終わらない。少女は父親と一緒にサプライズを計画し、おばあさんのミシンをテーブルに改造するのである。絵本の最後は、少女とおばあさんがそのテーブルで一緒にお茶を飲んでいるシーンで終わる。
林小杯は子供が描く絵のようなタッチで少女の天真爛漫さを描き出し、文章と絵でミシンの音を表現した。そうして、古いものを大切にし、想像力を発揮することを教えており、海外でも共感を得た。
また、今年のボローニャ絵本原画コンクールでラガッツィ賞の文学部門を受賞した作品『A Child of Books』は、世界の名作40冊から名句を選び出し、その文字で海や山など描いた一冊である。名句の寓意をイラストに込める手法は、ページをめくるたびに、さまざまな驚きや喜びをもたらす。新しい表現方法が読書の楽しみをもたらし、新たな発見がある。
絵本の物語はシンプルではあるが、そこに深い人生哲学を込めることもできる。鄒駿昇が今年ラガッツィ賞を受賞した作品『礼物』は、イギリスの美術評論家ジョン・バージャーの著書『イメージ——視覚とメディア』に啓発されて制作したものだ。絵本に美術鑑賞の無限の可能性を持たせ、世界に通用する作品に仕上げた。すでに多くの国の出版社から版権取得のオファーが来ているという。
2008年、鄒駿昇が初めてボローニャ絵本原画コンクールに参加した頃はイラストレーターとして活動し始めたばかりで、勉強のつもりだったが、自分が無数のイラストレーターの中の小さな点に過ぎないことに気付き、刺激を受けて一層努力するようになった。創作を始めて10年になるが、自分の作品はまだ未熟だと感じ、さまざまな表現方法を試みている段階だ。鄒駿昇は自らの経験をもとに、一度の受賞ではイラストレーターとして順調に歩んでいけるとは限らないと言う。まずは、できるだけ多くの国際コンクールに参加することだ。米国の3×3、AI、CA、英国のAOIなど、海外のイラストレーター協会や美術雑誌が主催するコンクールで自分を磨き、国際的な視野を持ち、絶えず力を伸ばしていかなければ認められる機会は訪れないと言う。
28年前に台湾のクリエイターが初めてボローニャ絵本原画コンクールに参加して以来、毎年台湾の創作者がチャレンジを続け、世界の舞台に立っている。より多くの人が絵本創作の列に加われば、台湾のイラストレーションの生命力もさらに高まっていくことだろう。
郝明義は民間団体の力を結集してボローニャに出展し、展示した作品は、現地で文化的に重要な役割を持つ図書館に寄贈した。(郝明義提供)
郝明義は民間団体の力を結集してボローニャに出展し、展示した作品は、現地で文化的に重要な役割を持つ図書館に寄贈した。(荘坤儒撮影)
オリヴァー・ジェファーズとサム・ウィンストンの『A Child of Books(本の子)』。文字を挿画に用いるという新たな手法で人々を驚かせた。
オリヴァー・ジェファーズとサム・ウィンストンの『A Child of Books(本の子)』。文字を挿画に用いるという新たな手法で人々を驚かせた。
柯倩華は、台湾の絵本の品質がさらに向上し、多くのオリジナリティのある作品が創り出されることを願っている。
鄒駿昇は不断に努力を続け、数々の国際コンクールで賞を取ることで海外の出版社と仕事をする機会を得てきた。
鄒駿昇の作品《Highest Mountain,Deepest Ocean》。
多くの人の努力に支えられ、台湾のイラストレーターの創意あふれる作品が世界で光を放ち続けている。(郝明義提供)