一人ひとりの物語
商品の海外発送を請け負う会社RAJAWALIには燦爛時光書店の書籍も置いてあり、移住労働者はここでインドネシアの家族へ送る品物を選び、発送を委託することができる。家具や家電、建材から自動車まで何でも、複数のメーカーのものが選べる。店内にはソファーが展示され、壁には商品の写真が貼られ、奥には品物を受け取ったインドネシアの家族の写真が貼られている。
ここで働くインドネシア人の話によると、移住労働者の中には実家に現金を送ると浪費してしまうのを心配し、品物を送る人も少なくないのだという。インドネシアにもRAJAWALI社があり、そこを通して家族の必要なものを届ける。正月前には家の模様替えのためにソファーなどの家具を送る人が多く、平時は洗濯機など、実用的な家電を送る人が多い。
台北駅に戻る途中、色とりどりのヒジャブをまとった女性たちの姿が目に入る。李成帥は、ヒジャブや服の色や長さから、その人の出身地や信仰が分かるという。アラブ諸国の女性の多くは黒いヒジャブなのに対し、インドネシアのムスリムの女性はさまざまな色や長さの異なるヒジャブを身につけている。
「一人ひとり違うのです」と李成帥は言う。多くの台湾人は、ヒジャブをまとった女性を一つのグループとして扱うが、実はそれぞれ出身地も異なる独立した存在なのである。
「接触する機会がなければ、彼らに対する認識は自分が想像したものに過ぎません」と許家瑜は言う。人から聞いた話や書物の知識ではなく、実際に話をして理解する方が早い。彼女は、暮らしの中の話題できっかけを作る。例えば「インドネシアで面白い場所は?」と聞けば、多くの移住労働者や新住民が熱心に答えてくれるし、そうした対話から文化の垣根を乗り越えられる。
交通網が移住労働者を集める
台北を後にして、東南アジア出身者が多く集まるもう一つの場所、鉄道桃園駅を訪ねた。ここでは現地の東南アジア団体である望見書店の林周煕店長に案内してもらった。
桃園駅の後車站(南口)前の交差点で、林周煕は遠くの亀山工業団地の方向を指差してこう説明する。1990年代頃から工業団地では大量の労働力が必要になり、外国人労働者が増えた。そうした中、桃園駅は交通の便が良いため、休日に外国人労働者が集まる場所となった。しかし、近年は工業団地周辺にも東南アジア出身者向けの商店が増え、駅に集まる人は少なくなったという。
桃園市の交通計画の変化も、労働者が集まる場所に影響してきた。もともと桃園駅南口の駅前には広い空き地があり、多くの外国人労働者が休日にここに集まっていたが、3年ほど前、その空地が駐車場になり、集まる場所がなくなった。林周煕によると、将来的には鉄道桃園駅が地下化し、MRTの新路線も通ることから南口の景観は大きく変わり、労働者と都市の関係もさらに変わっていくことになるだろう。
現代的なファッションにヒジャブをまとい、柱に寄りかかるムスリムの女性。