
7月の遠見雑誌による「25県市の特色競争調査」では、高雄市は最も魅力的な都市の第2位、独特な建築スタイルの第5位に入り、高雄市の愛河は宜蘭県の冬山河に次いで最も美しい河岸の第2位に選ばれた。8月、1万8000人を対象とした中国時報紙の「台湾地区23県市施政満足度と展望に関する調査」では、高雄市は、栄誉感、市長、施政、建設の進歩、ビジョンなどの項目ですべて5位以内に入り、全体評価では1位の座に輝いた。
かつて高雄市と言えば、工場の煙突とコンテナばかりの工業都市というイメージがあり、全国的なドラゴンボートレースでも、他地域のチームが愛河でのレースへの参加を拒否することさえあった。「黒竜江」と呼ばれた前鎮河は、その水を墨汁として使えると言われたほどだ。
だが今日、高雄市は生まれ変わった。タクシーの運転手も、城市光廊や愛河、文化センターの芸術大道など、高雄の美しいスポットを熱心に紹介する。この美的都市を創出した高雄市工務局の林欽栄局長は「高雄への移住ブームが始まるでしょう」と自信満々に語る。
台風が去ったばかりの台湾南部では時折小雨がぱらつくが、愛河の岸辺に行くと、短パン姿の市民が散歩をしている。金髪の外国人が身体にぴったりした服を着て、ある人の後をついて歩き、その人の一挙一動をそっくりに真似て周囲の笑いを誘っている。真似された本人も最後に気づいて大笑いする。これは「国際大道芸フェスティバル」のプログラムのひとつなのである。

世界各地から集まった大道芸人が愛河の河岸でパフォーマンスを披露する。愛河左岸には音楽ホールや映画図書館など文化施設がそろっている。
みずみずしい高雄
老夫婦が手を取り合って川岸を歩き、子供がサンダルを脱いで水中を歩き、カップルはカフェに座って川面を眺める。川岸には星光親水階段、七彩噴水、音楽広場、散歩コースなどがあり、愛河の詩情は両岸の緑地へと広がっている。
海に向う左岸には高雄市映画図書館、歴史博物館、音楽ホール、駁二芸術特区などがあり、文化の香りが漂う。右岸には自転車専用道の他に光彫橋広場、光之塔、河堤公園、三民親子公園、愛河親水公園などのレジャー空間が広がる。
高雄の中心を流れる愛河は50年代には魚の棲む川だった。愛河という名称は実は日本時代にここにあった渡し舟の会社の名前である。だが、都市化が進むにしたがって愛河には家庭排水が流れ込み、工業廃水も加わって、臭い「ドブ川」になってしまった。
さらに悪いことに、当時の河岸には風俗街があって治安も悪かったため、愛河は高雄の人々の記憶からしだいに薄れていった。80年代には愛河に「蓋」をして、その上に道路を通すことさえ検討された。

河川と港をテーマとしてライトアップされた高雄の夜はかくも美しい。
光で演出
「高雄には山も川も港もありますが、山は美しくなく、川は臭く、港は出入り禁止で、ひとつも大切にされてきませんでした」と話すのは文化愛河協会の許玲齢理事長だ。だが謝長廷市長が就任してから「海洋首都」のコンセプトが打ち出され、「水と光」が高雄市の美のモチーフとなったのである。
夜の愛河はさらに美しい。中都橋には黄色いライト、中正橋には紫と黄色のライトが当たり、光彫橋はC字のラインが美しい。工務局は7つの橋それぞれにふさわしいライトを工夫し、川面に照り映える。
川下の高雄第一港の傍らにあるバナナ倉庫は50年代には輸出バナナの集散地だったが、その後は没落してしまった。しかしバナナ倉庫は港務局の管轄下にあるため一般市民がここに入って港を眺めることはできなかった。
そこで高雄市はバナナ倉庫の2階に続く階段を港湾の外につなげ、市民がここから港の景色を楽しめるようにした。こうすれば港湾地区に立ち入る必要はない。この他にもフェリー乗り場の新光埠頭、西子湾付近の哨船頭公園、第二港横の高字塔、旗津海洋広場、風力発電の風車公園などでも海の魅力を味わえる。

河川と港をテーマとしてライトアップされた高雄の夜はかくも美しい。
未来へと向う駅
高雄市は河川と港の他に、歴史的空間も大切にしている。「古いものを大切に保存すると同時に新しい意義を持たせることが必要です」と工務局の林欽栄局長は話す。中でも注目すべきは古い駅舎を利用した「ビジョン館」であろう。
旧高雄駅は日本時代の「興亜帝冠式」建築だ。2002年、台湾鉄道と高速鉄道と地下鉄による新駅が建てられることとなり、旧高雄駅は取り壊されることになった。だが高雄市はかつて同駅舎を建設した日本の清水建設に協力を仰ぎ、駅舎をそのままの姿で82.6メートル移動したのである。さらにそこに新しい意義をあたえて高雄の最新の変化を紹介する「ビジョン館」とした。
駅舎の他に、古いプラットホームも工務局が救い、コミュニティ建築家と地域社会から再利用の案を募った。その結果、前鎮、小港、塩埕、新興、楠梓の五つの地域でホームが再利用されることとなった。

ビルの林立する都市に蓮池湿地公園が豊かな緑を提供する。
皆のプラットホームを再利用
前鎮区では建築家の羅必達氏が中心となり、ホームが学校と地域共有のステージとなった。子供の音楽会の舞台となる他、子供たちの絵などを展示する空間が誕生した。「建築家は住民と対話する機会が少ないので、今回の経験は勉強になりました」と羅さんは言う。
古いものに新しい生命を吹き込んだ例はまだまだある。愛河の近くの「光之塔」は夜は七色にライトアップされるが、これはエッフェル塔のような建築物ではなく、70年代に建てられた高圧線の鉄塔で、高雄の工業化の歴史を物語っている。
2002年、高圧線地下化が進んだが、コミュニティ建築家の提案で、愛河沿いの20余りの鉄塔のひとつを残すことになったのである。

河川と港をテーマとしてライトアップされた高雄の夜はかくも美しい。
通学路が変わった
新学期が始まり、昨年の七賢、旗津などの学校に続いて、今年は中山、博愛、加昌、新光、前金、苓洲、塩埕などの小中学校でも通学路が様変わりした。
昨年から始まった「通学歩道」計画には子供たちも参加している。コンセプトは従来のコンクリートの塀を、中が見通せる木の柵や潅木や低い塀にするというもので、教員や地域住民やコミュニティ建築家が知恵を絞り、子供たちの創意も取り入れて進められる。
苓洲小学校では低い塀の間に建つ石柱の上に鳥小屋が置かれ、校門の傍らには散歩中の犬のためのトイレも設けられている。五福中学の先生は「木の名刺」をテーマに通学路上の街路樹を紹介し、音楽の先生と音楽部の生徒は「街頭ラジオ」として通学路に音楽を流している。
「高い塀を取り壊すと空間が広がり、市民と都市の距離が縮まり、友好的な雰囲気が高まります」と林欽栄局長は言う。工務局の年間100項目の公共工事はすべてヒューマニズムの精神で進められている。

長く高かった塀を取り壊すことで、手の触れられなかった緑が身近になり、人々は文化センターに散歩に訪れるようになった。
光廊の奇跡
塀を壊すと言えば「城市光廊」を忘れてはならない。城市光廊は五福路中央公園横の長さ150メートルの歩道だが、以前は公園と塀で隔てられていた。2001年、工務局はこの塀を取り壊し、高雄市現代画会の林熺俊理事長の発想で9人の芸術家が「光」をテーマにライトアップを設計した。さらにカフェを設け、演奏会を開くなどして、歩道が高雄市民の憩いの場となったのである。
「高雄市民は情熱的で、人と触れ合うことが大好きなんです。こういう心地よい戸外の空間ができると人と人との関わりができ、それは美しいものです」と愛河協会の許玲齢理事長は言う。
美感は五感を総合した感覚だ。高雄市の美は人間性に満ちた公共空間と、地下に埋められた下水システムの上に成り立っている。愛河の美しさはその「光」にあるだけでなく、より重要なのは澄んだ水だ。
下水道整備には時間も資金もかかる。高雄市工務局の計算によると、高雄では下水道普及率を1%上げるために10億の費用がかかるという。98年、高雄の下水道普及率は6.5%に過ぎなかったが、現在では32.65%と全国2位、この5年間の普及率上昇幅は全国一だ。
実際、愛河の浄化には下水道を普及させるほかない。最近では愛河流域の下水道普及率は60%に達しており、「黒竜江」と呼ばれた前鎮河と愛河支流の二号運河も下水道整備によって生まれ変わった。

高雄港近くの「駁二芸術特区」にはメタルワークアーティスト劉丁讃の意欲的な作品が展示されている。高雄はもはや芸術の砂漠ではない。
思考の逆転
高雄市の近年の変化においては、市政府、特に工務局の功労が大きいことは市民も感じている。かつて新竹の改造で注目を浴びた林欽栄局長は、市民は身近な環境について要求や期待を抱けることに気づき始めたと語る。
行政部門にも「思考の逆転」が求められている。以前の工務局は、道路や橋などの公共施設のハード面だけを考えていたが、愛河や湿地公園、風車公園などの整備では、ハード面の考慮だけでは済まない。
また「工務ファミリー」と呼ばれるチームワークで公共工事の質が格段に高まった。現在進行中の「五福路国際観光歩道」では施工を統合し、ブロードバンドや交通信号、街灯、光ファイバーなどのケーブル類を一度に設置し、沿線のパブリックアートも含め、ハード面とソフト面を一気に完成させた。工務局の他に交通局や新聞処などの他部門も一体となり、総合力を発揮したのだ。

一般市民の出入りが禁止されていたバナナ倉庫は、2階への階段を港湾管制区の外と結んだことで市民の憩いの場となった。
反対派にも手を差し伸べる
高雄市は民間団体とも戦略的パートナーの関係にある。
地方政府はもともと市民に最も近く、社会の力を活かせる部門だ。市民の意見を取り入れ、地元の知識や民間団体を総合してこそ、公共空間が真に蘇ると言えるだろう。
「民間の覚醒と力がなければ、政府の力だけでは美しい社会は確立できません」と高雄大学都市発展・建築研究所の曾梓峰所長は言う。
2002年、高雄市建築士協会は、すべての区にひとつずつ「コミュニティ建築家ワークショップ」を設置した。地域の建築家が住民の考えを具体化して政府に提出するためで、これによって光之塔や通学歩道などが実現したのである。
愛河に関しては94年に文化愛河協会が発足し、長年にわたってコンクリートの堤防の取り壊しと、河川と近隣の住居を隔てる河西路の撤去を求めてきた。河西路の車両通行停止を要求するために、交通量を調べたこともある。そして今日、これらの要求は実現したのである。
高雄市は重苦しい重工業都市から現代的な美的都市へと変わり、人と空間のつながりと都市や地域へのアイデンティティも確立した。
高雄の景観を一望したければ、ビジョン館に行ってみよう。ゴーグルとヘッドホンをつければ鳥になって高雄の上空を飛び、緑のベルトのような愛河を見下ろすことができる。

河川と港をテーマとしてライトアップされた高雄の夜はかくも美しい。

C字型にカーブを描く光彫橋は澄み切った愛河とともに高雄の美を奏でる。