「かわいい」商品は日本人の専売特許だが、今年日本で話題になった「マメデルモンのたまご」は実は台湾生れだったのをご存知だろうか。
今年のバレンタインデーに日本で人気をさらったのが、透明な缶の中に入った卵から豆が芽を出すという「マメデルモンのたまご」だ。缶のふたを開けて毎日水をやり続ければ、卵の殻が割れて中の豆が発芽する。そして出てきた芽には、なんと「I Love You」やハートなどの文字や絵が刻まれている。この奇抜なアイディアが日本女性の心をつかみ、またたくうちに10万個が売れたという。
日本の流行に極めて敏感な台湾の若者にもこの情報が伝わるや、台湾でも問い合わせが殺到した。日本の東急ハンズとの合弁である「台隆手創館」で売られていることがわかると、一日に300個以上が売れた。この人気に注目したモスバーガーは、セットメニュー・プラス199元で、マメデルモンのたまごをつけた「魔蛋(マジックエッグ)セット」を売り出すなど、数ヶ月の間に台湾でもブームに火がつき、ナイトマーケットでも人気商品として売られるようになったのである。
ハローキティやデジモンに次ぐ日本商品ブームだと台湾の人々が信じている間、台湾中部の嘉義郊外では、80人余りの従業員が昼夜を分かたずこの「魔蛋」製造に励み、全世界へと発送していた。

缶詰から豆が発芽する「魔豆」が日本のトミー社のキャラクターと一体化して日本の女性消費者の心をつかんだ。
豆に入れ墨
魔蛋の発祥地を一目見ようと、記者は嘉義へと車を走らせた。大林インターで下り、言われた通りの地点に行くと民家がポツンと現れた。よく見るとその後方に工場らしき建物があり、外にはダンボール箱が高く積まれ、日本やイタリア、タイへの輸出を示すラベルが貼られている。
工場の空き地では、赤い豆たちがびっしりと並んで日光浴をしていた。少々古ぼけた様子の建物内には生産ラインが4本あり、ナタマメを選別する人、豆を卵に詰める人、卵を透明の缶に詰める人など10数人の女性が忙しそうに働いている。商品の人気を物語るような熱気だ。
建物中央のレーザー室では、数名が大きさのそろった豆をトレイ上に並べ、それをレーザー係りに渡していく。レーザーで豆に文字や絵を刻み込むため、大きさや距離が測られていく。傍らの壁には車やハート、スマイルなどの絵柄や、Good Luck、Go Go Go!、 Happy Birthdayといった文字が並んでいる。
隣室では、若い男性がやや疲れた様子で、アメリカやカナダへの輸出について客と商談していた。色の浅黒いこの青年こそが魔蛋の発明者――陳振哲さんである。
「魔蛋は実はわが羽鉅公司の三つ目のヒット商品で、『植物の缶詰』のバリエーションです」と今年43歳の陳振哲さんは語る。陳さんにとって魔蛋のヒットは意外だった。なぜなら6年前に植物の缶詰を発明した時は、いろいろな壁にぶつかったし、どんな人を対象に売ればいいのかもわからなかったからである。

売上を伸ばし続ける魔蛋は、可愛らしい文字や絵が出てくるというだけでなく、流行や話題などさまざまなマーケティング手法を駆使して成功した。
缶詰から生える花
陳振哲さんの家は、典型的な稲作農家だった。つらい農作業を見て育った陳さんたち兄弟(姉が3人、兄が1人)はみな家業を継ぎたがらず都会に出ていった。陳さん自身も嘉義民雄農工機械科を卒業した後、就職活動するのが嫌で自分で事業を興そうとしたがなかなか思うようにいかなかった。金物業をしばらく手がけた後は市場の雑貨屋に日本の文房具や日用品を卸す商売に移った。嘉義にある大小の市場に商品を卸すことから始めて12年、後には高雄や台南にも手を広げて商売は安定したものの、陳さんは仕事にやりがいを見出せなかった。
そんな時、転機が訪れた。6年前、統一食品公司から「1000名余りの株主に配る贈呈品として何か気の利いたものはないか」と問い合わせがあったのである。同企業の管理職の中に陳さんの商売を知る人がいたのだ。
陳さんは既製品から選ぶのではなく、同企業の製品に関連したもので個性を出すべきだと考えた。園芸が好きな陳さんはちょうど小鉢植物の改良実験を進めており、「統一企業のジュース缶と植物を合わせてみたら?」という考えが生れた。そこで空き缶の中に培養土を入れ、植物がうまく生える位置に種を埋めることを何度も試みた。
この贈呈品の評判がよかったので、陳さんは缶詰植物の道を歩むことになる。だが陳さんは「あれは失敗作でした」と認める。缶の植物はうまく成長しなかったからだ。その後、実験を繰り返して花をきれいに咲かせることに成功、自ずと商品も売れていった。

ナタマメにどうやって細かい文字や絵を刻むのか、落としても割れない卵の殻からどうやって植物の芽を出させるのか。小さな魔蛋だが、さまざまな技術が活かされている。
思わぬチャンス
「チャンスだと思えば、逃さないことです」という陳さんは、二人の姉、姉の夫とともに100万元を投資し、協力して商品の開発に打ち込んだ。だが最初の2年は赤字続きで両親に投資してもらった200万元も使い果たした。種を植えるべき位置も把握し、発芽率も100%になって商品としては完成したものの、果たして「誰がこれを買ってくれるのか」という問題が残っていた。
「卸しをやっていた頃は、販売店さえ確保すればよく、『誰が買うのか』ということは考える必要がありませんでした」陳さんはとにかく以前のように地道に顧客を開拓することにし、ナイトマーケットとオンライン市場にターゲットをしぼった。「ナイトマーケットで売れるようにと価格も低くしました」と言う。
マーケティングについての知識もなかった陳さんは、商品を位置づけすることも知らなかったし、広告で宣伝もせず、ただ市場に商品を並ばせておくだけだった。
そんな陳さんにまたもや幸運の女神がほほえむ。イタリアから来た事業家が台湾のナイトマーケットで缶詰植物に目をとめ、陳さんに連絡を取ってきた。独創的な商品だから、ヨーロッパでの販売代理を引き受けようと言うのである。果たして缶詰植物はヨーロッパで大いに受け、最初の1年で陳さんは多額の収益を得た。
流行商品が市場を開拓し続けるには多元性が必要なことを知っていた陳さんは、海外から輸入したチューリップや百合の種を缶詰植物にして、再びオランダに輸出した。これはオランダ人にとっても新鮮な商品だったようだ。現在、缶詰植物はすでに世界10数ヶ国に輸出され、植物の種類もカーネーションやヒマワリ、ヒヤシンス、ガーベラ、テッポウユリ、ラベンダー、ローズマリー、観賞用ミニトマト、五色トウガラシ、そして台湾の国宝とも言えるタイリントキソウなど40種以上に及ぶ。

「マメデルモンのたまご」の缶を開けて水をやり、8時間すると卵の殻が割れて豆の芽が伸びてくる。2日後には文字や絵の入った豆が姿をあらわし、1週間後には緑の葉が伸びて立派な植物になる。
必要に迫られた発明
缶詰植物の開発に取り組んでいたある日、陳さんは大きなナタマメの粒を見ていてふとこんな考えが浮かんだ。「字や絵を刻んだ豆が土の中から出てきたら、すごいのではないか」と。
1年後、缶詰から豆が発芽する「魔豆」は市場に出るや大きな反響を呼び、売上げも軽く1000万元を超えて缶詰植物を上回った。しかも日本の玩具メーカー「トミー」が提携を申し出てきた。
ところが、中国大陸や韓国で廉価な模造品が売られ始めるという事態が出現する。そこで陳さんは技術や質をさらに高め、缶詰の代わりに卵の殻を破って豆が発芽するという「魔蛋」を開発した。
「初めのうちは本物の卵の殻を使っていたのですが、出荷量が増えるにつれて、入手できる卵の殻の量が追いつかなくなりました」そこで、作り物の卵で代用することにした。だが、割れにくく、しかも豆の芽が突き破ることのできるような適度な硬度を持つ殻を作るのは容易ではない。これは独力では無理だと、陳さんは嘉義大学に協力を頼み、沈栄哲教授とその学生たちとの協力を得て、プラスチックの殻を開発した。この「魔蛋」は多くの国で特許を申請し、日本のトミーとも提携して、販売ルートを拡大していった。
「日本で月10万個近く売れると、その勢いに乗って台湾や他国での売上げも伸びました」台湾では缶詰植物も魔豆も思うように売上げが伸びなかったのに、ひとたび日本でブームに火がつくと、再び台湾に返り咲いたのである。ただし、かつてナイトマーケットなどと無闇に廉価で取引きしていた頃の関係を断ち切るため、陳さんはしばらく台湾での販売を停止することにした。
「長年の取引き関係をすべてご破算にしようというわけではありません。でも、もうそろそろ市場を安定させるべき時です」と陳さんは言う。台湾では現在、豆に企業のトレードマークを刻印したものなどを、企業の贈答品や宣伝グッズとして使ってもらうような場合の商品に限っている。今年の母の日にはコンビニの統一超商と提携し、母の日記念グッズとして発売した。
「これはまだ手始めで、今後も新商品を開発し続けます。おもしろいアイディアはまだまだありますから」と陳さんは自信にあふれる。趣味だった園芸をついに商品として花咲かせることに陳さんは成功した。ひょっとしたら何年か後には、蛍光色に光る缶詰植物や、音楽につれて踊りだす鉢植えなどが世界中で流行しているということもあるのかもしれない。

「卵から文字入りの植物が生まれる」というシンプルな構想だが、その背後には多数の技術的困難と販売上の障害があった。(荘坤儒撮影)

昔から農家ばかりの嘉義県渓口郷には、他の産業が進出していないので雇用の機会はほとんどなかった。それが魔蛋が大ヒットしたことで、住民たちも農業の業態転換に夢と希望を抱くようになった。

「マメデルモンのたまご」の缶を開けて水をやり、8時間すると卵の殻が割れて豆の芽が伸びてくる。2日後には文字や絵の入った豆が姿をあらわし、1週間後には緑の葉が伸びて立派な植物になる。

「マメデルモンのたまご」の缶を開けて水をやり、8時間すると卵の殻が割れて豆の芽が伸びてくる。2日後には文字や絵の入った豆が姿をあらわし、1週間後には緑の葉が伸びて立派な植物になる。

ナタマメにどうやって細かい文字や絵を刻むのか、落としても割れない卵の殻からどうやって植物の芽を出させるのか。小さな魔蛋だが、さまざまな技術が活かされている。

売上を伸ばし続ける魔蛋は、可愛らしい文字や絵が出てくるというだけでなく、流行や話題などさまざまなマーケティング手法を駆使して成功した。