
電子商取引が世界を席巻している。インテルの会長は「5年後には全ての会社がネット化されているだろう」と予言した。毎年、台湾で10億米ドル以上の製品を購入している台湾IBM社の許朱勝社長は、「e台湾」を将来の青写真に描いている。全ての企業が電子化に走り、ネット市場に乗り込もうとしているが、そのネットの世界のバーチャル・マーケットはどんな姿を見せるのだろうか。普通の人がその入口を見つけるにはどうするのか、そしてネット市場の賢い消費者になるにはどうしたらいいのだろうか。
33歳の黄士杰さんは、五股工業地区の電子計測器メーカーに勤めるサラリーマンで、また交通大学経営管理学科の修士課程の学生でもある。二足のわらじの忙しい生活で、町を歩く楽しさをほとんど忘れていた。去年、バレンタインデーの一月ほど前のこと、ネットサーフをしていて花のプレゼントの広告を見かけた。そこでアクセスしてみると、この店ではオフの価格でバレンタインデーに人気の種類の花束を予約できると言う。この前のバレンタインデーには空手でデートに行って、彼女をがっかりさせたこともあり、迷わず1500台湾ドルの白いバラを注文することにした。
ネットで花を注文すると、触れられず匂いも嗅げず、質の悪いバラを買ってしまう恐れはないのだろうか。「大丈夫、花のよし悪しは彼女が言ってくれるし」と黄さんは言う。手軽で安上り、彼女も大満足で、しかもわざわざ会社を抜けて買いに行く必要もない今回の買物、黄さんはネット・ショッピングが気に入ったという。
アメリカで16年を過した国立雲林科学技術大学応用外国語学科の潘頴薇助教授は、国際的なネットショッピング族である。
「よく海外に出かけますが、ネットでレンタカーを予約すると2割引、ホテルの予約代行サービスもあるし、自動的にポイントがつくポイント制の割引もあります。お得ですよ」と、早口で述べ立てる潘さんは、ハイテクにも財テクにも長けているらしい。
ヤフーの株主でもあるため、潘さんがアクセスするのはヤフーのショッピング・モールが多い。「AからZまで種類が多い上、写真説明もはっきりしています」と説明する。ビタミンEなどの健康関連商品は台湾で買うと恐ろしく高いが、ネットではアメリカ国内価格だし、台湾に送るのでアメリカの高額の付加価値税(カリフォルニアでは8.25パーセント)もかからない。国際郵便の費用は高いが、それでも試してみる価値はある。
「買いたいものが余り多くない時は郵送料が割高に感じます。そんなときはネットショップのショッピングカーにいれておきます。数日すれば同僚が注文したりするので、一緒に送ってもらえます」と言う潘さん、実は学生に国際的ショッピングモールでの買物や株取引を勧めている。「英語の練習にもなるし、世界のビジネス動向にも詳しくなり、ネットで国際的視野を広められるでしょう」と言葉を続けるのである。
インターネットは世界に同時につながるため、国内のホームページで世界の華人マーケットに照準を合せられる。ホームページ「中間分子クラブ」を開設している蕭善文さんは、ネット上で個人の写真集撮影の予約を受け付けている。「ネットで予約しておけば、留学生やスチュワーデスなど、夏休みや仕事の合間を縫って台湾に戻ってきたとき、すぐスタジオに入れます。予約していないと、時間枠の取合いになって希望通り撮影できないことが多いのです」と蕭さんは言う。これからはコンピュータの映像合成技術を利用し、予約したお客がネット上でヘアスタイル、衣裳などや自分の肌の色や髪の形などを合せてみることができるようになる。その場になって、合う、合わないと手間のかかることもなくなるだろう。
人気沸騰のインターネットだが、ほんの10年前までは新しく芽生えてきた概念に過ぎなかった。それが高速の光ファイバー網の利用によって、情報伝達速度が飛躍的に高まり、世界に連結し距離を問わない特性から、情報革命を引き起したのである。
5年前、アクセスしたユーザーにコンピュータ製品の情報を提供していただけのデル社のホームページで、ユーザーからの強い要望があって注文も受付けることにした。それからわずか1年、無名の中小企業だったデル社は、世界3位のパソコン・メーカーにのし上った。こうしてネットは情報の通り道から商品の流通路に変身し、豪華な店舗も巨大な倉庫も要らず、誰もがネット上の店舗で買物できるようになった。その上、ネット上の商店は世界中からアクセスでき、24時間営業で、家から出なくとも世界の商品を手に入れられる。流通モデルは、これから一変することになった。
ネット・ショッピングの魅力とは何だろうか。バーチャル・マーケットは場所の制限がないことがまず上げられる。現在、毎日1000余りの注文を受付け、国内最大のネット書店となった博客来社の張天立社長によると、現在同社が契約している出版社は500社余りを数え、金石堂や誠品など大型書店チェーンを上回っていると言う。
「店舗は高くつき、空間も限られます」と張社長が言う通り、多くの書籍は書店の流通網に載せることができない。人気出版社でも、一部の書籍が書店の棚に載るだけで、多くのロングセラーは書店から姿を消してしまう。
CATVの三立伝播に勤務する周さんは、定期的に重慶南路の書店街を歩くことにしていた。ところが、前回買いそびれたベストセラーを買おうと思っても、書店の棚は全面的に入れ替わっていて、見つからないことが多い。書店街での情報不足、時間の余裕のなさに懲りた周さん、今ではネット上をゆっくり散歩し、よく考えて買いたい本を選ぶ。しかも1割引で、郵送料無料と言うのも魅力である。
それにネット上の商品は棚から下したり、運んだりする必要はなく、クリックするだけで素早く次から次へと眺められる。ネットの双方向の対話機能を利用すれば、購入過程を通じてさまざまな付加価値が生れる。
例えば、時間の節約のために、書店では決った好みとスタイルを持つ人が多く、大抵旅行、経営、小説など自分のよく知っているジャンルに直行する。ところが、古典的良書の中にはジャンルを跨り、分類できないものが多いのである。そこで博客来では、本来ジャンルが異なる関係のない書籍を、あるテーマの下にまとめることにした。「焦慮」などのテーマで、科学、経済、社会、文学、さらには健康などの面から書籍を集め、消費者はクリックする間に今まで接触する機会のなかった書籍に触れ、視野を広げられる。また読者に感想を書いてもらうように勧めていて、他の人の意見を見ながら注文を出せる。
ネットの情報の通路という本質を生かせば、ネットショッピングは単なる商品購入に留まらなくなる。
「消費者は単に買物をするだけではなく、商品に関連する情報を買物しながら手に入れているのです」と、3年前にエイサー・モールを開設したエイサー・グループの元碁資訊社の叢毓麟社長は話す。
例を挙げよう。デパートにボーンチャイナのコーヒーカップを買いに行くとする。現物を見れば質感や模様はよく分るが、ボーンチャイナの由来、歴史や見分け方などは、デパートの女性に聞いても分らないだろう。こんな時にはネット商店の商品にリンクするボーンチャイナ専門のホームページにアクセスすれば、ネットでの情報探索の楽しみを味わえる。
そうは言っても、今のところこういった知的な買物の旅は、まだ望み通りとはいかない。というのもネット各社はまだ巨額の欠損を抱えている段階で、付加的サービスを充実させる余裕がない上に、ISDNが十分普及していないわが国の通信速度は、十分速いとは言えないからである。それにリンクでつながるホームページをサーフしているうちに、ユーザー自身が買物を忘れてしまうこともある。
ショッピングで情報を吸収すると言うタイプに対し、去年の中秋節にネットで義美社の月餅を販売したヤム・ドットコムのネット電子商取引部の祈遠芬さんは、情報サービスからネットショッピングへと言う反対方向のモデルを提案し、将来のヤム・ショッピングネットの理念構築を図る。
その分析によると、女性ユーザーはヤムの女性ネットから健康やダイエット情報を取り入れ、そこから関連の書籍や製品を購入しようとする。ネット上で適時に商品を提供できれば、アクセスしたユーザーはそこで全ての必要性を満たせるのである。また、ネットコミュニティの中で、誰かがシドニー旅行を提案したとする。賛成者が多ければ、そのホームページで適当なスケジュールを組み、旅行の夢をかなえると言うのも考えられる。
始ったばかりのヤム・モールは、構想こそ遠大なものの、実際に手に入る商品はまだ少ない。しかし、祈さんは焦っていない。毎日100万回を超えるアクセスを誇るヤムは、台湾では一番人気のあるサイトで、台北市にあるそごうデパートのように、多くのテナント業者が店を出したがっている。それでもアクセス数が金銭に化けるとは限らないのである。「ネット市場はそこにあるのですが、どう手に入れるか、手に入れた後どうするのかが問題なのです」と祈さんはため息をつく。
現在、わが国にはざっと計算しても数千を数えるホームページが存在するが、海賊版ソフト販売やアダルト系ビデオなどのサイトを除くと、大部分がまだ赤字である。
「バーチャル市場は店舗も倉庫も要りませんが、実際のコストは安くないのです」と叢毓麟さんは言う。ホームページはアクセス数がなければ価値がない。人気を維持するためには、しばしば人気商品の販売促進や、イベントを行い、定期的にお知らせメールを送り、消費者に存在を知らせなければならない。現在、ネット商店の多くが会員制を採用し、顧客のファイルを作って、ブランドへの忠誠度を確保しようとしている。エイサー・モールは設立3年になるがいまだに会員募集の段階で、いつになったら黒字転換するのか、叢さんも予測がつかない。
ヤムが去年行った調査によると、ネット族の57.7パーセントがネット上でショッピングしたいと答えた。台湾の400万人に上るネット人口を考えると、励まされる数字である。「20歳以下の若者は朝から晩までネットに遊び、すでに彼らの世界なのです。そこでゲームし、学び、友達を探し、無論ショッピングもします」と祈さんは言葉を続ける。
無論、人で混み合うデパートから比べると、ネット・ショッピング人口の成長はじれったいほど遅い。その原因を突詰めると、狭いわが国は買物に便利なこと、しかもネットの電子商取引に欠かせない信用システムが健全ではないことが挙げられる。多くの人が、わが国の電子商取引の将来に余り楽観的になれないのも肯ける。
台湾大学商工管理学科の洪明洲教授は、アメリカを例に挙げて説明する。国土の広いアメリカでは、スーパーに行くにも車である。当然、ネットでの買物のほうが早くて便利だし、通販市場がすでに100年以上の歴史を持ち、遠距離の物流システムが発達している。数多い通販のカタログをインプットすれば、それでホームページを開ける。それでもネットショッピング大手のアマゾン・ドットコムでさえまだ赤字なのだから、台湾でCDや書籍、日用品などの薄利多売商品を売って儲けるのは難しい。
洪明洲さんはさらに比較を続ける。ネットショッピングを行う背後には物流、代金の流れ、情報の流れが密接に繋がっていなければならないが、台湾では物流に時間とコストがかかりすぎるのである。そこで物流が必要な実体商品は、ネットでの取引に向かない。「わが国のネットショッピングはバーチャルな商品、デジタル化した製品が向いています。知識、情報、サービスなどです」と洪さんは言う。
2年前、中華電信や華夏旅行社と共同で旅行ホームページを開設し、航空券販売、ホテル予約など旅行サービスを提供している文明電子商務事業グループの洪英才社長は、8年前に電子商取引に乗りだしたときからこの傾向を見ぬいていた。そこで同社が開設しているのは旅行、娯楽、教育及び投資顧問など、物流に関係しないバーチャル商品なのである。
わが国のネットショッピングの先駈けとして文明電子商務事業グループが誇る秘密兵器は、「動態データバンク」と「即時取引システム」である。洪社長の話によると、航空券予約には世界500の航空会社のデータバンクとオンラインで結び、随時データを更新していなければならない。これが動態データバンクである。また、資金の流れを自社で把握し、処理するために、顧客がクレジットカードのデータをインプットすると、同時にその金額が自社のデータに記録される。これは商店でカードを使うのと同じである。
「デジタル・データに転換したバーチャル商品を送るのも、電子商取引の重要な一項目です」と、元碁社の叢毓麟さんも言う。そこでエイサー・モールでは教育関係に力を入れると共に、中華徴信所と協力し、国内の会社の手形不渡記録を提供している。顧客は料金を払えば、信用資料をダウンロードできる。最近は得意伝播社と協力し、名画の複製のデジタル伝送サービスを開始し、ネットで名画の複製販売を始めた。
将来の傾向が明確になりつつあるが、自社で教育ホームページ開設を準備中の洪明洲さんは、わが国のバーチャル製品開発に憂慮している。「台湾は製品製造はできますが知識や情報財の製品は弱いのです。特に知的財産権への保護と尊重が確立できず、将来に渡り潜在的な問題です」と言う。
ヤムの調査によると、わが国の消費者がネット取引の安全性を信頼していないのも、電子商取引発展のもう一つの障害となる。しばらく前、アメリカでハッカーがゆすり目的で多くのホームページのデータバンクに侵入したが、金をゆすり取れなかったために顧客のクレジットカードのデータを公表した事件が起き、これがネット・ショッピング族を驚かせた。
「ネット上でのクレジットカード使用には注意が必要です」と、消費者保護基金会の名誉会長で、ネット消費協会の理事長でもある林世華さんは言う。商店でクレジットカードを使用しても、データが盗まれることはあるが、普通はサインが基準となり、自分のサインでなければクレジットカード会社が損失を負担する。ところがネットでのクレジットカード使用にはサインが必要ないため、問題が起きると面倒になることが多い。
その一方、消費者保護基金会では去年12月にホームページを開設し、ネット上で苦情を受付けるようになったが、現在までに受付けた苦情は100件余り、しかも通常のクレジットカード使用とネットとの比率は半々で、予想したより少なかった。しかも消費者の苦情で一番多いのが、勝手に送られてくる大量のごみメールで、騙されたというのは少ないと言う。
国際的なネットショッピングの経験が豊富な潘頴薇さんは、クレジットカードは余り心配することはないと言う。正規のホームページは会員制を取っていて、会員番号と暗証番号がなければ買物できないので、勝手に使われる可能性は余りない。(詳細は「ネットショッピングの注意事項」を参照)
電子商取引にはまだまだ技術的な問題が残されているようだが、全体的に見て「ネットでのショッピングは消費者にとっていいことには違いありません」と林世華さんは言う。情報と価格の透明化がその鍵になる。10数年前、消費者保護基金会が内密に各スーパーの価格調査を行ったときには、スーパー側から追い出されそうになったことさえあった。それが「現在は、そんな調査の必要はありませんよ」と、林世華さんが笑う通り、今ではスーパー自身が自社のホームページで各ブランドの製品の価格を公開しており、消費者はクリックすれば価格を比較できる。国外では価格比較専門のホームページがあって、倹約に一役買っているのである。
「これまでは業者が商品情報を独占していましたが、現在ではネットと言う効率のいい情報の通路ができましたから、消費者は自分が損するのではないかと心配する必要がなくなりました」と林世華さんは笑う。ネットでのサーチはこれからである。賢い消費者の皆さん、ネットを使う準備はできているだろうか。