大いなる河川に親しむ
台北の最も古い地図と言えば、1654年にオランダ人が作成した『淡水とその付近の村および鶏籠(基隆)島略図』がある。梁蔭民さんによると、古地図の縮尺は精確ではないが、台北一帯の重要な河川はすべて描き込まれている。オランダがスペインから奪い取った和平島の他に、淡水河の河口から、基隆河、新店渓や大漢渓の流域まで見ることができる。
かつて経済発展が何よりも重視された時代には、人々はこれら台北一帯の主要河川を裏庭のように扱い、ゴミが投げ捨てられ、工業汚染によって一夜にして川の色が変わることもあった。その後、この30年にわたる政府の努力によって、大漢渓、新店渓、基隆河と、この三大支流が流れ込む淡水河の水質は日々改善されてきた。
ゴミの埋め立て地は河川敷公園に変わり、大漢渓には8ヶ所の人工湿地が設けられて豊かな自然が見られるようになった。河岸にはバスケットボールコートやソフトボール場、散歩道やサイクリングコースが設けられた。淡水河と基隆河の合流地点に位置する関渡や竹囲などの砂州は、台湾北部では重要な水鳥やマングローブ林の保護区となっている。
「私たちは200年の洪水率という視点から河川を管理してきたため、堤防はどんどん高くなり、人と河川の往来をさえぎってしまったのです」と梁蔭民さんは言う。その後、堤防の美化や堤防をまたぐ橋の設置などによって、人々が河川に親しめる景観を整備し、レジャー施設が設けられるようになってきた。
著名な建築家ザハ・ハディッド氏が設計した「淡江大橋」のデザインのインスピレーションは、台湾のコンテンポラリーダンスカンパニー、雲門舞集(クラウドゲート)のダンサーの姿から来ているという。2026年初の竣工予定で、単主塔で非対称の斜張橋としては450メートルの世界最長の橋となり、淡水河口の広大な景観が美しく彩られることとなる。
梁蔭民さんがハイキングや冒険が好きな人に薦めるのは基隆河沿いのポットホール(甌穴)群の景観だ。基隆河の上流は雨が多く、速い流れが上流から砂礫を押し流してくるため、川下の河床が浸食されて大小さまざまな孔が開いたものがポットホールである。
中でも最も顕著なポットホール群は暖暖、猴硐、四広潭、大華の4か所にある。これらは水の浸食を受けてできた地形で、広い範囲にさまざまな形の穴が数えきれないほどあり、世界的にも珍しい景観と言える。
台北市中心街の隠れた水域を訪れるのもいいし、大漢渓や新店渓の堤防を自転車で走ったり、そこから夕日を眺めたりするのもよい。あるいは悠遊カードで遊覧船に乗って淡水河をクルーズするのも、五分港渓でドラゴンボートを漕ぐのもいいだろう。河川は都市のヒートアイランド現象を緩和し、レジャーの場を提供してくれ、生物の重要な生息地でもある。台北の水域は記憶の中だけのものではなく、暮らしの中で親しめる存在なのである。
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新北市新店には250年以上前の引水トンネルが残っていて、現在は開天宮が管理している。(梁蔭民提供)
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大員水文化復興協会は、霧裡薛圳支線で外来種を取り除く在来種保護ワークショップを開いている。楽しくて役に立つ活動だ。(梁蔭民提供)
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淡水河の河岸は台北市民が散歩やサイクリングを楽しむレジャー空間となっている。
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淡水河湿地はマングローブ林の豊かな生態を育んでいる。
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淡水河の流域ではレジャーや美食、スポーツなどさまざまな活動を楽しめる。
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五分港渓には水神信仰が残っている。台湾唯一の屈原宮は北投区の洲美里にある。