風と共に広がる善の種
楊蔚齢は私たちを井戸掘りの現場に案内してくれた。国連の調査によると、カンボジアでは人口の7割に水道が普及しておらず、地方の人々は雨水を溜めたり、川で水を汲んできたりして使っている。乾季には水不足が生じ、またデング熱やマラリアが発生しやすく、胃腸疾患も多い。
そこで知風草協会は、2015年から用途指定の寄付金を募り始めてカンボジアの僻遠地域の学校で井戸を掘ってきた。これまでに50ヶ所が完成している。学校には水道がないため、井戸ができたことで、生徒や教員はトイレにバケツの水を持っていく必要はなくなった。モーターで1時間水を汲み上げれば、子供たちは家に水を持ち帰ることもできるようになった。この井戸水は地域で最も清潔な水であり、その貢献は大きい。
火葬場や井戸だけではない。「私は教育が専門なのです」と話す楊蔚齢は、ポイペト県知風草職業中学の校長でもある。台湾からの寄付金で建てられた学校は赤レンガに木枠の窓のあるカンボジアらしい姿で、周囲5つの村で唯一の中学校であり、300人余りが通っている。
楊蔚齢がカンボジアで活動を始めたのは1987年だ。当時、中華航空のキャビンアテンダントだった彼女は、国際ボランティアとしてタイの難民キャンプを訪れた。当時、タイとカンボジアの国境地帯は戦場で、内戦によって極度の貧困に陥ったカンボジアの人々の姿が目に付いた。そこで彼女は生活条件が最も厳しい「地雷村」に残ることを決め、国境地帯で物乞いをしていた子供たちを「流浪児童之家」に収容し始め、1995年に中華民国知風草協会を設立したのである。
それから20余年、知風草協会は児童の教育支援を続けてきた。「内戦による貧困や病を終結させ、貧しい人々を自立させられるのは教育だけです」と楊蔚齢は語る。彼女のオフィスには大きな台湾の地図が貼ってある。彼女は台湾から寄付金や物資を募り、カンボジアで中華学校18校と知風草中学を開設した。台湾から贈られた文房具や教科書、学資補助金などにより、7万人の児童が恩恵を受けている。
台湾のライオンズクラブも地雷村に唯一の中学校を建て、今では18の教室がある。国連の統計を見ると、2017年、カンボジアで中学を卒業した子供はわずか57%である。こうした中で台湾の思いやりで建てられた中学校は、学校へ通えなかった村の多くの子供たちの問題を解決し、13年来、すでに5000人が卒業している。
「台湾で贅沢な食事をする費用を寄付するだけで、カンボジアの貧しい子供一人を助けられます」と楊蔚齢は言う。「歴史の流れの中で、私たちは本当に恵まれています。カンボジアの人々が戦乱による荒廃に立ち向かおうとする姿を目にし、知風草は善の種をまいているのです」
2005年、台湾のライオンズクラブが地雷村に中学校を創設し、子供が学校へ通えないという課題を解決した。(知風草協会提供)