安全性とおもしろさのバランス
だが、話し合いで市がまず持ち出したのは「遊具は国の法規であるCNSに従わなくてはならず、法は犯せない。子供の安全をないがしろにするのか」というものだった。
市の言う「安全」を守るため、母親たちは家事を終えた夜中に法規を研究し、ネットでの勉強会も立ち上げた。海外文献の翻訳ができる人、児童心理や幼児教育の専門家にも支援を頼み、建築や景観のプロからは設計図の見方を学んだ。
林さんと張さんが母親たちとともに立ち上げた「特公盟」は専門知識や統計数値を元に、地域のニーズに合った子供の遊び場建設を政府に要求した。しかもその空間は、子供の各成長段階に必要な運動能力の向上や感覚の刺激、情緒面でのサポートが得られるものでなくてはならないと。
ネットを通じた運動で「感動を覚えた瞬間があった」と林さんは言う。2016年末に台北市が中央研究院の脇にある中研公園での視察を行った際、中央研究院から10数名が出てきて、「お仕着せの滑り台は拒否」「遊び場改造への住民参画」などを訴えてくれた。地元住民が立ち上がったのを初めて見た瞬間だった。その結果、同公園には各年齢層の楽しめる砂場、円盤ブランコ、スーパーノバ、木馬、スピンカップなどの遊具が設置され、しかも黒いゴムマットの代わりに人工芝を敷いた台北市初の公園となった。
「私たちは単に滑り台やシーソーなどを求めているのではなく、必要なのは子供に適した遊びの空間なのです」だから子供の遊び方をよく理解し、設計の段階でもっと子供たちの声に耳を傾けてほしいと特公盟は望む。
例えば砂場は犬や猫の大小便や雨水などの管理がしにくいが、子供にとっては大切だ。そこで特公盟は児童心理士の江淑蓉さんに砂遊びの重要性について一文を発表してもらった。「子供は砂遊びを通し、自我の発展、情緒の転化、創造力の刺激を可能にする。砂は子供の一切を受け入れ、子供の内なる世界の表出となる」というもので、それによって里長や役所を説得した。
海外文献の翻訳を担当する李玉華さんも、児童の権利を訴える海外の組織と接したり、関連文献を翻訳したりするうちに、遊びが子供の発達にいかに重要かを再認識するようになった。
母親たちも海外旅行の際には現地の遊び場を子供とともに「視察」するようになった。新北市職員も、海外旅行での見聞を公園に生かした例がある。樹林区東昇公園にある、カラフルなネットを張り巡らせた滑り台は、日本の沖縄の公園を参考にしたものだ。
林亜玫さんは仲間とともにポスターを抱え、台中や高雄にまでも出かけ、公園で理念を訴えた。こうして彼女たちの声は新北、桃園、台中、台南、新竹、基隆、高雄と広がっていった。
新北市は比較的広いスペースがあり、年齢や能力を考えた遊具を設置できる。例えば林口区の「小熊公園公23」はいわゆるインクルーシブ公園で、異なる年齢層の児童がともに遊べる。同じく林口にある楽活公園は高さ4メートルの滑り台やクライミングネットが備えられ、やや年長の児童に適している。中和にある錦和公園には高さ6メートルのクライミングネットと長さ28メートルのローラー滑り台がある。ファイブスター・クラスと称される員山公園の滑り台はさらに高く、9.3メートルの人造石製だ。
各公園の特色を生かそうと、特公盟は「サテライト公園」という考えを打ち出した。各公園を楽しめる年齢層をそれぞれ絞り、子供の成長に伴って異なる公園で遊ばせようというものだ。
「特公盟」のメンバーは海外でもさまざまな特色ある遊び場を視察している。写真はロンドンのバタシーパークにある森林型の遊び場。(特公盟提供)