海を通じて世界と友だちに
かつて海禁政策が敷かれていた頃、海は国と世界を隔てる壁のような存在だった。しかし、今や海は台湾が世界とつながるための通路なのだ。
2018年、岳明の子どもたちがビーチクリーン活動の最中にカメラを拾った。持ち主を探そうとSNSに投稿をしたところ、なんとカメラの持ち主は遠く離れた日本に住む女性‧椿原世梨奈さんだった。2年あまり前、石垣島でのダイビング中にカメラを失くしてしまったという。
このカメラの不思議な漂流が、岳明と椿原さんをつないだ。椿原さんは実際に台湾までカメラを受け取りに来て、子どもたちと対面し、翌年には子どもたちと約束した通り卒業式にも出席した。岳明ではこの縁を人形劇に仕立て、台湾各地の学校で巡回上演している。しかも「一公演につき一回のビーチクリーン活動」をおこなうというスタイルだ。劇は日本でも上演され、語り継がれた。
蘇澳鎮と石垣市が姉妹都市である縁から、岳明と石垣海洋少年団&石垣ジュニアヨットクラブは以前から密接な交流があった。石垣島ではセーリング教育が民間クラブによって運営されているため、カリキュラムの一環としてセーリングが深く結びついている台湾の学校はとても羨ましがられていると黄校長は話す。石垣市の行政側からは、将来的な交換留学の提案もあったほどだそうだ。
昨年の台湾一周セーリング後、岳明は在台フランス協会から、台湾にいるフランス人の子どもたちにセーリングの指導をしてほしいと依頼された。今年5月には、岳明の子どもたちがフランスの子どもたちと共に、淡水を出発して、新竹、台中、澎湖、台南を経由し、最終的に高雄に到着する航海をし、「高雄フランスフェスティバル」にも参加した。ヨットは、岳明と世界をつなぐ架け橋となった。「海を通じて世界中と友達になろう。世界という教室で、人生を違ったものにしていこう」という黄校長の願いにも通じている。

人生が変わる体験をしてほしいと、海洋教育を学校に導入した岳明の黄建栄校長。子どもたちが世界を教室にして学べるよう願う。(荘坤儒撮影)

岳明の教員と児童らは、澎湖の望安小学校の仲間たちと一緒にカヤックを漕ぎ、漂着ごみを拾って海の環境を守った。

2024年、岳明は全国36校の教員・児童を集め、「光脚号」と「阿莫号」という2隻のクルーザーで台湾一周の航海を成し遂げた。

小さなヨット『オプティミスト』の操縦では、子どもたちは風の強さを見極め、全身の力を使って波を切り進む技術を身につける。

宜蘭冬山河での岳明のセーリング授業。ヨットはセーリング技術だけでなく、人生の困難に立ち向かう勇気も教えてくれる。(荘坤儒撮影)

海洋教育は、海での技術を子どもたちの身体に深く刻み込み、海の子どもたちのDNAとなっていく。

日本で石垣海洋少年団&石垣ジュニアヨットクラブと交流し、ヨットで世界とつながった岳明の小さな航海士たち。

カメラの持ち主・椿原世梨奈さんは、岳明の卒業式に参加するため来台した。

不思議な漂流をした1台のカメラが、岳明の子どもたちのビーチクリーン活動中に拾われたことで、台湾と日本をつなぐ思いもよらぬ友情が生まれた。