台湾醤油の定義
台湾系アメリカ人のフードライター‧魏貝珊さんはかつて、香港の醤油である生抽や老抽を使って肉燥飯(滷肉飯)を作ったが、味がしっくりこなかったという。醤油は料理の仕上げに欠かせない調味料である一方で、地域ごとに風味の違いがあり、互いに代替がきかないものなのだ。
日本の醤油と比較してみよう。日本の醤油はすっきりとした塩味がストレートに伝わってくるのに対し、台湾の醤油は味に奥行きがあり、後味にほのかな甘みが残る。御鼎興醤油の三代目‧謝宜哲さんは「日本の醤油がワインなら、台湾の醤油はウイスキー」と例える。
醤油産業に使命感を抱く謝さんは、かつて台湾中の醤油工場を訪ね歩き、台湾醤油の主要な特色を描き出そうと試みた。しかし最終的に気づいたのは、確かに黒豆醤油は台湾の食文化に深く根付いた記憶であるものの、原料の多様化が進む中で、屏東内埔の「広妹来金」、嘉義布袋の「新来源」、台中東勢の「美東」といった、主に大豆を使って醸造する醤油工場もまた、同様に評価されるべき存在であるということだった。
皇珵醤油の責任者‧簡志斌さんも、台湾周辺の中国、日本、東南アジアでは豆麦醤油が主流であるのに対し、台湾では黒豆醤油が広く根付いている点が特徴的だと語る。ただし、中国でも黒豆の産地である東北地方や福建では黒豆醤油が存在することが文献から確認できるという。
また、台湾の醤油は最低でも4か月もの長い時間をかけて発酵‧熟成させるのが一般的とされているが、宜蘭の醤油にはわずか21日で仕上がるものもあり、こうした例外もある。
熟成用の容器についても、伝統的な陶器の甕を用いた製法が今も重視されている一方で、時代とともにステンレス、プラスチック、ガラス繊維を使った発酵タンクを採用する醸造所も増えている。
最後に、独特の風味を生み出しているのは風土だ。灼熱の太陽の下でおこなう天日干しこそが、現在の台湾醤油に共通する最大の特徴だ。謝さんは、黒龍醤油の三代目である涂靖岳さんの言葉を引用し、「台湾語で『蔭』(発音は him)とは、『燜』(蒸し)を意味し、醤油は高温下で日光にさらされ、蒸し熟成されてできるもの」と語る。台湾の醤油を「蔭油(yimyu)」と呼ぶのを好む謝さんは、台湾の「蔭油」を、ヨーロッパのオリーブオイルや、日本の味噌になぞらえる。国内においては誇るべき文化資産であり、国外に向けては台湾の食文化を描き出す重要な象徴になるというわけだ。

台湾人は素材の味を大切にする食文化を持ち、醤油を巧みに使いこなす。醤油は、つけダレ、肉の煮込み、蒸し魚、漬物、和え物など、さまざまな料理に活用される。

台湾の「国民飯」ともいえる滷肉飯(ルーローハン)に、醤油は欠かせない。

醤油は、豆麦醤油、黒豆醤油、醤油膏(とろみ醤油)、加味醤油など、いくつかの種類に分類され、市場には多種多様な選択肢が並ぶ。消費者は自分の好みや用途に合わせて選ぶことができる。