2000年から「マイクロスタートアップ」が台湾で話題になってきた。女性の起業に対し、政府は「マイクロスタートアップ・フェニックスプログラム」と「女性起業フラインググースプログラム」を推進している。昨年、アジア太平洋経済協力（APEC）会合の女性と経済フォーラム（WEF）で、わが国が経済と起業環境における女性のエンパワーメント推進の経験を紹介したところ、多くのAPEC会員から賛同が得られた。

ASEANと南アジアを対象とした女性起業ワークショップのメンバーが「掌生穀粒」を訪れた時の様子。

女性の起業　台湾のソフトパワー

「ソフトパワー」を焦点にICDFが初めて実施した「女性起業ワークショップ」はASEANと南アジア諸国をターゲットにする。ネパール、インドネシア、ベトナム、インド、スリランカ、タイから12名がワークショップに参加した。

カリキュラムの中心は「女性起業」をテーマにしたレクチャーと企業訪問である。「マイクロスタートアップ･フェニックスプログラム」と「女性起業フラインググースプログラム」の紹介とともに、台北市婦女新知協会が要請を受け、女性のポテンシャル開発と起業力育成について語る。台東大学イノベーション･インキュベーターセンターは、女性企業の育成体系を紹介した。

ワークショップは高雄市と地方の女性団体の訪問も実施した。また、女性による起業の成功例として「中国藍有限公司」「謝謝茶」「掌生穀粒」を訪問し、その企業経営に学び、台湾の民間社会のソフトパワーを実感した。

異なる国の様々な分野からきたメンバーが台湾に集まっていた。カリキュラムでの対話だけでなく、課外の時間も貴重な国際交流のチャンスを存分に利用し、交友のネットワークを築くとともに、台湾と「新南向国」との関係も深まった。

「掌生穀粒」の商品を見るタイ人とスリランカ人の研修生。台湾での経験を故郷に持ち帰ろうと考えている。

台湾で経営マネジメントを学ぶ                                                                                                                                    

タイ北部に残留していた国民党孤軍の3世で、バンコクで「93師カフェ」を設立した沈培詩さんも研修生の一人である。沈培詩さんは台北大学出身。大学時代にカフェでアルバイトをし、タイに帰って起業した。カフェ経営の外、コーヒーのレクチャーもする。

再び台湾を訪れたのは「マネジメントを学ぶ」ためである。事業が拡大していくなか、ビジネスモデルも革新し前進していかねばならない。

コーヒーの事業にある程度規模ができた今、「社会から得たものを社会に還元したい」という。タイの性産業の深刻さを思い、沈培詩さんはカリキュラムを通じて、台湾企業が事業経営に加え社会貢献に取り組む姿に学び、女性の再就職を支援し社会に貢献したいと考える。コーヒーに関する専門知識を活かし、地元の女性が技能を身につける手伝いをしたいという。

「マイクロスタートアップ･フェニックスプログラム」は、起業資金融資の利息助成、メンターサービス、信用保証を提供する。「起業フラインググースプログラム」では、女性起業家にトータルコンサルティングを行う。研修生の国にはない2つの制度に関心が集まった。

レトロでおしゃれな米のパッケージは消費者の目を引く。

興味の集まる起業ローン

ハノイに本部を置くVWUベトナム女性連合は1930年に設立され、全ベトナムの女性労働者の連携、女性問題の提起を推進し、また、ファンドと小額融資でベトナムの貧困家庭を支える。

VWUからワークショップに参加した2人の研修生は、ベトナムの状況とともに、VWUが草案を練る10年計画も紹介した。

ディエプ･グエンさんによると、VWUは今、10年計画を実現し行政と民間の協力関係、女性の起業を支援できるサービスについて模索しており、台湾の両プログラムは参考になるという。

積極的に討論に参加し、質問するベトナム女性連合メンバーのディエプ･グエンさん。

付加価値農業で見える商品の価値

インドネシア･バンドンの国立農業訓練センターからは4人が参加した。農業指導員のシンタさんがワークショップに参加したのは、台湾の進んだ社会と女性への尊重が理由である。

カリキュラムを終えた彼女は、インドネシアの農村人口は高齢化し、若い世代は農業を嫌うという。米の収穫から田植えまでの間、農家は時間があるのにすることがない。カリキュラムを通じて、農業の付加価値を高めるには、耕作以外に農家が経営について学ぶといいと考えた。

「掌生穀粒（Green in Hand）」の販売モデルは、彼女にとって大きなヒントとなった。花東地域の稲作農家と協力し、パッケージデザインとインターネットマーケティングで、米を郷土色豊かなギフトにしている。経験をインドネシアに持ち帰り、カリキュラムを作って農家の成長を支援したいとシンタさんは期待する。

インドネシア･ジャカルタのモザ･プラモノさんは女性起業家として3つの会社を経営する。今回は東南アジア最大かつ最も早くに設立された「インドネシア女性経営者協会（IWAPI）を代表してワークショップに参加した。

自ら立ち上げたつけまつげのブランドを自信をもって宣伝するインドネシアのモザさん。

インドネシアの研修生「台北市は清潔」

大学を出るとアパレル販売の職についたモザさんは、起業したくてもリソースがなかった。社交的な性格を活かしてメディアの仕事に就き、起業につながる人脈を築いていく。二人の子供がいる彼女は、家族旅行に適したリソースの不足を感じ、ウェブサイトliburkeluarga.com （家族旅行）を立ち上げ、自らの体験を紹介し、友人にも投稿を呼びかけた。今回の台湾訪問ではワークショップだけでなく、おすすめ商品やスポットを映像にしてサイトにアップしている。

彼女は台北市の路上にゴミが落ちていないことについて、国父紀念館の前で尋ねた。「どうしてゴミが落ちていないんですか？ゴミがあったらどうするんですか？」そして短い映像を作って台北市の清潔な環境を紹介している。

デザインが好きな彼女はつけまつげのブランド「Lashes by Moza」も創設している。他社品と違い、モザさんの商品は天然毛で手作りする。生産者はインドネシアの主婦だ。彼女は、ブランドロゴをショッピングバッグやスマホケースなどのグッズにして、いつも身につけて自分とブランドをアピールしている。

女性の起業はハードルが高く、乗り越える困難も多い。だからインドネシアの民間組織IWAPIは起業家に交流の場を提供する。

IWAPIマーケティング部長でもあるモザさんは、ワークショップ終了前に帰国し、IWAPIが国際的企業と展開する今年度の起業ワークショップの企画に取り掛かった。8つの都市でインドネシア人女性800人を育成する。過密スケジュールの中、どのレクチャーでも、必ず講師と交流していた。台湾の経験をインドネシアに持ち帰り、事業に応用し、そして全国にも広めたいと言う。

アジア諸国では女性の雇用や起業の問題は重視されてこなかった。しかし女性の意識が高まって権利が拡大するにつれて、各国の女性が台湾の経験を学びに訪れるようになった。

「女性起業ワークショップ」に続き、ICDFは今年「農業製品付加価値発展ワークショップ」と「貿易促進ワークショップ」を開催していく。ASEAN 10カ国と南アジア6カ国に年間で50人ほどの専門人材を育成する。こうしたシード人材を通じて、台湾と新南向パートナー諸国との協力関係を深め、広げていく。

さまざまな国から来たメンバーが台湾に集まり、楽しい交流が行われた。

インドネシアのバンドン市にある国立農業訓練センターから来た4人が楽しそうに台北の街を歩く。