体制内の小革命
行動こそが理想を現実のものにする。「台湾親子共学教育促進会」は児童の権利保護に尽力する団体だ。親子間で「打たない、罵らない、脅かさない、おどさない、利で誘わない」を提唱し、子供と大人の平等な対話やふれ合いを勧めている。子供たちを社会的議論に参加させ、2014年の「ひまわり学生運動」でも、子供たちは立法院の前で運動支持の列に加わったし、香港の民主化デモに対しても声援を書いたメモ書きを貼り付ける壁を作った。子供と共に、自分の信じる平等、自由、民主を大切にする考えを貫こうと努める。
親子共学促進会は、子供にやさしい環境づくりも進める。例えば台湾鉄道における親子車両の設置だ。同会の翁麗淑‧理事は、親子連れがうるさいから別車両にというのではもちろんない、と社会の理解を求める。子供にとって狭い電車の中でじっと座り続けることは苦痛で、動くのが好きな子供本来の性質に反する。それを大人が理解せず、一方的に「騒ぐな、大人しくしろ」と言うのは、現実的な要求とは言えない。
小学校教師でもある翁麗淑は、20年余り教育現場を見てきたが、教育改革がいくらなされても学歴主義の風潮は変わらないと感じる。小学生は学校の宿題のほかに、塾や学童保育でも宿題を出され、しかも丸暗記や丸写しが多い。そこで翁麗淑は、小学生新聞を読んだり、日記を書く宿題を出す。理解力や思考力の向上を目指すものだが、成績にはすぐ反映されないので保護者には不評だ。丸暗記に慣れた子がすらすらと答えを書くと、多くの大人は満足するが、翁麗淑はむしろ危険性を感じる。こうした環境で育てば、きちんと学んでいるようには見えても、反対に創造力や想像力は欠けてしまう。「缶詰のように規格化された子供ができてしまいます」と翁麗淑は言う。
彼女は授業で子供たちに多様な世界を見せるよう心掛ける。例えば、台湾プラスチックグループの創業者である王永慶は、教科書では、貧しい家庭に生まれ、努力して会社を大企業に成長させたと書かれている。だが翁麗淑は、同企業の第6ナフサ分解プラントで爆発や火災が多発していることや、王永慶には妻が複数いたことなどにもふれ、彼の人生について生徒と話し合う。また、女性科学者や同性愛者解放運動に取り組む人なども紹介し、ジェンダー問題を扱う。人には多面性があること、社会の多様性を知ってほしいと翁麗淑は願う。高い収入を得ることだけが成功することではなく、自然にやさしい農業を実践する人も、自分にとっての成功を得ているのだと。
保守的なままの学校教材とは対照的に、翁麗淑は、教育は時代の先端をいくべきだと考える。情操教育にせよジェンダー教育にせよ、子供の前に世界を広げて見せ、そのさまざまな様相や、自分とは異なる人々について理解させるべきだと。
堅苦しい言説ではなく、色とりどりのイラストや映像、インタラクティブ装置などが中心の「私は子供、私には権利がある」展は訪れる価値がある。