日本:労働集約型/完備した昇進制度
アン・リー監督は、海に囲まれた台湾の若者は積極的に海外に出ていって交流すべきだと語っている。そうした中で、文化的にも地理的にも近しいアニメ大国の日本は、海外へ出ていく際の最初の選択肢となる。
「リソースが豊富で関連する見本市も多い」と、日本のアニメ業界で働く多くの台湾人は評価する。アニメと漫画とゲームがしばしば一緒に展開され、さまざまな商品が同時に開発される日本では、早くから完全な産業チェーンが整っている。高い専門性と整った昇進制度があることが、多くの人材が日本の業界で働き続ける要因だ。
日本の業界に入ろうと思う台湾人の多くは、まず学生としてアニメ専門学校に入り、勉強しながら卒業後の就職先を探す。
Poirot社の張紹偉もそんな一人だった。台湾の崑山科技大学視覚コミュニケーションデザイン学科を出た彼は、卒業後になかなか理想の就職先が見つからず、日本へアニメ制作を学びに行き、以来8年日本でアニメに関わってきた。
「台湾人は経験を重視しますが、日本人は若者の育成を重視します」と張紹偉は言う。アニメのスタイルは、アクションやスポーツ、女性など多様で、プロダクションごとに得意分野が異なる。「台湾の多くの企業は、経験のある即戦力となる人材を採用しますが、日本の会社はゼロから育成します。会社ごとにスタイルが異なるので、自社にふさわしい人材に育てるのです」
だが、アニメ制作の仕事はハードで、続けられるかどうかも大きな試練となる。同じくアニメ専門学校を出て、Mukuo Studioで背景美術を担当する林鴻生はこう話す。「専門学校時代には、先輩たちから仕事がものすごくハードで、待遇も決して良くないと聞かされていましたが、就職してはじめて実感しました」
週6日勤務、平均一日12時間労働というのは当たり前だ。いつも時間との戦いなので徹夜も多く、中には社員のために仮眠室を用意している会社もあるという。
初任給も高くはない。基本給にその月に完成させた枚数の出来高が加えられるが、研修期間(試用期間)は給与が支給されないケースもあり、新人の離職率は非常に高い。
「10の仕事のうち、7つは自分が好きなスタイルではないかも知れません。でも新人の間は仕事は先輩が分配するので、仕事である限り『描けない』という理由はありえません。会社では、10年未満はみんな新人です」と林鴻生は言う。
ただ、最初の苦痛さえ乗り越えれば、経歴を問うことなく実力が評価され、整った制度によって昇進していくことができ、だからこそ日本で働き続ける人も少なくない。
張紹偉は、動画担当から動画検査、原画担当へと少しずつ昇格し、2年前には『甲鉄城のカバネリ』の動画監督まで務めた。