帆を上げて自由に進む
馬賽小学校にいた時、「無尾港文教基金会」から、無尾港の生態学習冊子の執筆を依頼された。この地域は彼が幼い頃に遊んだ場所でもある。後に校長の資格を取得してからは、機会があったらここの「岳明小学校」で教えたいと考えるようになった。
「岳明小学校に移った時、全校生徒は67名で6学級しかなく、地域の出生率は年々低下していました」という。地域の少子高齢化に加え、若い世代は都会へ働きに出ているなど、着任してすぐに難しい課題に直面した。「素晴らしい環境に恵まれた学校を廃校にしてしまうのは、あまりにも惜しいことです」と言う。近くには国の水鳥保護区があり、海辺にも近い。台湾中を探してもこれほどの環境に恵まれた学校は多くない。
黄建栄は、着任したばかりの頃は多くの改革はせず、将来の発展の可能性を探していた。「ある年、生徒たちを冬山河の国際童玩フェスティバルに連れて行ったところ、川辺に帆のあるボートが泊まっていました」。近くにいるコーチに尋ねると、これは世界中の子供たちが遊ぶ船で、アジア大会の種目にもなっているという。帆を操作し、風の力だけで前進する船である。「ちょうどその年、政府は内需拡大プランを推進していたので、私は宜蘭県教育処に大胆な構想を提出しました」と言う。政府の支持が得られ、ボートを8隻購入し、セーリングクラブを設立した。
だが、セーリングを推進し始めると、まず直面したのは保護者の心配である。「そこで私は休日を利用して保護者を冬山河に案内し、子供たちの練習の様子を見てもらい、実際に大きなボートに乗ってもらって航行を体験してもらいました」。黄建栄の観察では、セーリングはバスケットボールより安全だ。必ず救命胴衣を着用してから乗るので、船がひっくり返って水に落ちても沈むことはなく、落ち着いてさえいれば非常に安全なのである。自分の力で転覆した船をたてなおすこともできる。逆にバスケットでは足をくじいたり、脊椎を傷めたりすることもある。
こうして保護者の賛同が得られると、これを必修科目とした。3年生以上は必ず学び、ボートを操縦できるようにならないと卒業できない。セーリングは理科で学ぶベルヌーイの定理(逆風)とパラシュートの原理(順風)を利用したもので、合わせて社会科の航海の歴史や英語の専門用語も学べるし、国語の海洋文学に触れることもできる。黄建栄は、優秀な選手を育成したいわけではなく、このスポーツを通して人格面で成長してほしいと考えているのである。
小学1年生から水泳を開始し、卒業までにボディボーディングやスノーケリング、そしてセーリングを学ぶ。岳明小学校の海洋教育は子供たちの視野を広げ、身体と精神を鍛え上げる。まず恐怖心を乗り越え、航行中には一人で試練に立ち向かわなければならないという点が成長のカギとなる。「風を感じ、水の流れを感じなければなりません。風は変化し、水の流れも変わります。逆風で航行する時は神経を集中させることになりますが、逆に順風の時こそ転覆しやすいのです。うっかりすると船はひっくり返ってしまいます。それは人生と同じです」と黄建栄は言う。
馬賽小学校では野外活動をカリキュラムと結び付け、常に明確なテーマと内容をもって行われる。