ゴールドリーフの空間
姜阿新洋楼は、新竹県政府によって県定古跡に指定され、現在は予約者のみ見学できるようになっている。ガイドの多くは姜家の人々で、いずれもこの洋館と自分の記憶を結び付けてプライベートな物語を話してくれる。私たちが訪れた日は、姜阿新の孫娘の夫である姜阿新教育基金会の黄雍熙理事長が案内してくれた。
外から見ると、半円アーチ窓や出窓など西洋建築のモチーフが際立つ姜阿新洋楼だが、屋内には日本的な要素も多い。黄雍熙さんによると、建物は和洋折衷スタイルということで、屋内に入ると、廊下と応接室には高低差があり、日本家屋特有の玄関の概念も取り入れられている。応接室には間仕切りとなる引き戸が設けられ、引き戸を外すと広い空間となる。これは和室のふすまの概念だ。壁の角や天井板、窓枠などの細部にも、家主のこだわりが見て取れる。「この建物は、すべての部屋に異なるモールディング(壁や天井の接合部などに用いられる装飾材)が使われています。装飾のための彫刻は100種以上あり、いつも数えてみるんですが、100を超えると分からなくなってしまいます」と黄雍熙さんはユーモラスに語る。
姜阿新は製茶業だけでなく、造林も行なっていたため、屋内には大量の木材が用いられている。オガタマノキ、ヒノキ、クスノキ、ケヤキ、ランダイスギなど、いずれも彼が経営する林場で採取されたものだ。台湾人は家を建てる時に、縁起の良い意匠を取り入れるものだが、伝統的な紋様は洋館には合わない。そこで「建築家は縁起の良い図案を、さりげなく現代的な設計の中に取り入れたのです」と黄雍熙さんは言う。天井板には六角形の亀甲紋や銅銭、彫刻品の中にはコウモリや福禄寿などのおめでたい図案が隠されている。
洋館内はどこも魅力的だ。注ぎ込む陽光も、釘やネジを一切使わない飾り窓を通って空間に華やぎを添えている。黄雍熙さんは、ここで暮らした家族だけの物語を話してくれ、かつて「茶金」と呼ばれた時代に思いを馳せることができる。
さらに驚かされるのは、持ち出されたり、分解されたりしていた当時の家具が、洋館修復の後、一つ一つ戻ってきたことだ。カナダに移住していた姜阿新の孫娘とその夫は、紅眠床(朱漆を塗った頂棚があるベッド)をカナダから北埔まで輸送した。さらに、さまざまな偶然から、飾り窓や古箏、引き戸などが戻ってきて、姜家の人々は思いがけないギフトに喜んだ。
ドラマ『茶金 ゴールドリーフ』は、台湾の多くの地域でロケをした。祖先の家のシーンは屏東県佳冬にある蕭家の古い家屋や彰化県の県定古跡である永靖郷の餘三館で撮影した。KKの宿舎の場面に用いられたのは殷海光の旧宅である。また、製茶作業のシーンは桃園市の大渓老茶廠と南投県魚池の日月老茶廠である。英国茶葉博覧会場のロケ地は台北賓館、このほかに台北の中山堂や迪化街の十連棟、花蓮の瑞舞丹大戯院なども印象的な場面に登場し、多くの人が訪れてみたいと思う場所になっているのである。

老姜天水堂は優雅な門楼と、燕尾のように反り返った棟が美しく、北埔の古い町並みでも特に目を引く古い邸宅だ。

かつて会社が倒産した時、姜家の洋館「姜阿新洋楼」は差し押さえられたが、50年後に子孫たちが資金を出し合って買い戻し、当時のままの姿に修復した。

大渓老茶廠の作業場も『茶金 ゴールドリーフ』に登場する。