技術力で市場を独占
呉佩珊はこう話す。「2008年以降、世界的な金融危機の影響を受けました。また業界では品種開発面でも壁にぶつかっていて、台湾の観賞魚業界は先行きが見えない状態でした。しかし、2009年にドイツのハノーバーで開かれたペット見本市で台湾のシナヌマエビが受賞し、拉瑪国際の五行蝦が知名度を高めることに成功し、台湾の観賞魚産業はようやく息を吹き返したのです」行政院農業委員会漁業署の統計によると、2016年の台湾観賞魚類および関連産業の年間生産高は36.7億台湾ドルに達する。
観賞魚のブリーディングは他の水産養殖業に比べると技術的なハードルは低いものの、技術に関する情報は閉鎖的で、外部の人には分からない。そのため門外漢が始めても失敗に終わることが多い。魚の品種によってそれぞれに特殊な飼育方法があり、設備維持なども含めて技術的に難しい点が多数ある。いずれも自ら繁殖・飼育作業をしてみなければ分からないものなのである。「業界の先輩たちは皆、魚が死ぬという経験を重ねて経験を積んできたのです」と呉佩珊は言う。
「北海水族培養中心(Northern Ocean)」の陳文錠は、観賞魚飼育を初めて30年余りになるが、自分の経験はこの産業の縮図でもあると語る。1965年、陳文錠の父親が彰化県永靖でブリーディングを開始したが、宜蘭に温泉水源があるというので礁渓に移転した。後の1988年に屏東県潮州に土地を買ってから今日まで続いている。約1.6ヘクタールの敷地を持つ北海水族培養センターは観賞魚繁殖場としては大規模である。多様な品種を量産しており、年間生産量は20万尾にのぼる。個人的な経歴から、彼は中部と北部の卸売業者に人脈があり、その商品は主に国内市場で販売している。毎週月曜日に17トントラックが集荷に来て、同社と近隣の繁殖場で300箱を積み込み、卸売業者のもとへと運んでいく。
屏東県竹田にある「長生魚場(Long Life)」は0.4ヘクタールの小規模な繁殖場だ。責任者の李済臺は市場のピラミッドのトップに位置するプロ級のマニアをターゲットとしている。台湾の繁殖場はインドネシアやタイなどの低価格商品と競争するのではなく、ヨーロッパや日本などの成熟した市場を狙うべきだと考える。こうした市場では品種の純粋性や産地が重視される。そこで長生魚場では、品種開発ではなく、市場でも希少な台湾品種を専門に飼育している。高品質の餌や天然の藻類などを与え、ホルモン剤などは使用せず、魚の自然な発色を重視し、SNSを通して直接バイヤーに販売している。
ニシキゴイ(錦鯉)を主に繁殖・養殖する「六栄銘鯉場(Luxe Fancy Carp)」でも同じように高級路線を採用している。「頭が大きく、肩の幅が広く、尾付け部が太いのが良いニシキゴイです。色は油絵のように厚みを感じさせ、背の模様は左右前後が対称で、段ごとに紋様の変化があり、上から見ると一枚の絵のように見えるものです」と責任者の黄益文は説明する。養魚場では生後60日の段階で1回目の選別を行ない、その50日後に2回目の選別を行なって、品質レベルをコンテスト級、AA級、A級、B級に等級分けしている。最後まで残る魚苗は全体の20%に過ぎない。「国内市場でコンテスト級まで購入する人は非常に少ないですが、AA級やA級を購入する人は多いのです」と黄益文は言う。高雄で定年退職してから、老後のために近隣の屏東に家を買って移り住む人が少なくなく、そうした中には庭に池を作ってニシキゴイを飼う人もいる。そうした人々の間で六栄銘鯉場の品質は口コミで広がり、養魚場まで購入しに来るのである。
観賞魚市場の前途は楽観できないが、ブームを追って生産するだけでは、一時的な利益しか得られない。一つの企業が長く経営していくには、商品の品質を重視し、既存の設備や人材を活かし、適切な販売戦略を立てなければならない。台湾の観賞魚産業が再び世界市場で確固たる地位を築いていけるかどうか――業者の知恵と気力が試されている。
観賞魚・エビを扱う多数の養魚場の中で、拉瑪国際はエビを色や寸法で1匹ずつ選び、病気のものは排除することで品質を保証している。王国中は「五行蝦の定価は私たちが決めるのです」と力強く語る。
台湾生まれの五行蝦。美しい色を出すには豊富なミネラルが必要で、東南アジアの養殖場でもこの飼育には成功していない。
ニシキゴイには細菌やウイルスによる病気が多いため、六栄銘鯉場では厳しい感染予防措置を採っており、一度出荷した魚を再び養殖池に戻すことは決してしない。
李済臺によると、観賞魚の潜在的市場は大きいが、一般の卸売業者はマニア市場を掌握しておらず、小規模な養魚場にその空間が残されているという。
一尾ずつ背中に異なる模様があるニシキゴイは、上から見下ろして観賞する。