昔の本屋の印象は、店主が黄ばんだシャツに黒ぶちのメガネをかけ、天井には古びた扇風機が必死に熱い空気をかき回しているというものだった。薄暗い電気の下、店の片隅で立ち読みする人が楽しそうに午後を過ごしていた。中には立ち読み中の本のページを折っておき、次に来た時に続けて読むつわものもいた。タダで本が見られるのは、経済的に困窮した時代では最大の娯楽だったのである。
台北市の牯嶺街や重慶南路、小さな街の昔ながらの書店は、多くがこうした方式を続けており、店主が本の仕入れから販売、出版までを行っている。かつて出版業界に10年以上身をおいた張伝財さんは、当時、重慶南路の書店街を朝訪れると、店主が店員を店の前に2列に並ばせ「『民法序論』が欲しい」と言うと、店員がすばやく店に駆け込み、まるで秩序のなさそうな本の山からそれを探し出す光景が見られたという。こうした訓練は、当時は最も質のいい開店前の教育だったと言えるのではないだろうか。
1980年代の初頭、教科書出版から身を起こした新学友と、紡績が本業の金石堂が続けて書店を開いた。特に金石堂は書店事業に積極的だった。広いスペース、明るい店内の内装など、現代企業の経営手法を取り入れ、多くの読者を魅了した。金石堂で有名な「ベストセラーランキング」はまた人々の読書案内にもなった。
1990年代になると、海外の流通グループが台湾で店を出し始めた。しかし台湾市場に食い込むまでには至らなかった。日系の紀伊国屋書店の場合、以前は台北そごうに店を構えていたが、収益は目立った増加がなく、当初計画されていた大規模拡張もストップがかけられた。その後フランス資本のフナック(FNAC)が台湾に進出したが、やはり苦戦を強いられている。だが同じ時期に出現した誠品書店は業績を伸ばし、一躍台湾書店業界のトップブランドへと駆け上がった。
「誠品現象」の動きで、ここ10年あまりのうち台湾では大型書店や特色のある書店が続々と現れ、読書市場もにぎわいを見せるようになってきた。
今年初め、国際的にチェーン展開しているシンガポールの書店ページワンが台湾に進出、世界で最も高いビル――台北101に入った。ページワンの店舗はシンガポールの著名なデザイナー陳家毅氏の手でデザインされたもので、700坪余りのスペースにはイメージ豊かな読書空間が広がっている。原書は16万冊を有し、中国大陸、香港、台湾で原書の数が最も多い書店となっている。
このほか、ベストセラーとビジネス書で知られる金石堂は、昨年アーティストの馮光遠氏を販売企画のチーフとして招いている。さらに今年初めには大安森林公園の近くに文学をテーマにした「私の書斎」という新店舗を開いた。これは金石堂が大衆的なイメージを脱し、より高級感を持ったイメージ作りをはかろうとしたものである。
台湾の出版業は盛んで、書店もさまざまなアイディアを出し、文化伝達のパイプは多様化している。その恩恵に最もあずかっているのは読者だ。国際企業の進出、従来の書店の再生などに対し、書店の経営者は「これはよい競争であり、私たちは市場のパイを分割しているのではなく、市場を拡大しているのです」と語る。本誌は社会が本の香りに包まれ、私たちの精神生活をより豊かにしてくれることを望みつつ、今月号から台湾の特色ある書店を取材し、紹介していく。

15年を歩んできた誠品書店は、ある意味ですでに台湾の読書文化の指標となっている。シンガポールの書店チェーン、ページワンが年初に台北101に進出した。中国大陸、香港、台湾で原書の数が最も多い書店と言われている。金石堂は年初に文学をテーマとした書店「私の書斎」をオープンした。大衆的な書店からグレードアップを図る試みである。

15年を歩んできた誠品書店は、ある意味ですでに台湾の読書文化の指標となっている。シンガポールの書店チェーン、ページワンが年初に台北101に進出した。中国大陸、香港、台湾で原書の数が最も多い書店と言われている。金石堂は年初に文学をテーマとした書店「私の書斎」をオープンした。大衆的な書店からグレードアップを図る試みである。