タイヤル古道の豊かな緑
こういった植物はタイヤル族の植物で、祖先が道を辿りながら利用し、生長の場を広げていったこともあるだろう。そして今、これらの植物は豊かな生命力を見せている。タイヤル族の植物のひとつ、サトウヤシは強靭な繊維を持ち、縄や笠、箒、屋根を葺く材料に用いた。
ゲットウの繊維も干してから細く縒り、筵や籠を編んだ。ゲットウの実は、誰もが知っている仁丹の原料だった。
南澳古道の涼やかな木陰
日本と原住民の苛烈な過去をひとまず置くと、今日の南澳古道は避暑に格好の場所である。沿線は涼やかな木陰にあり、南澳南渓の水音を耳に進んでいくと、爽やかな気分になる。
古道の奥深くに入り、道を一歩一歩踏みしめていくと、小川の上方に樹木が枝を重ねている。上り坂に沿って石畳が切られ、人の歩幅に適するよう調整され、体のリズムと呼吸に合せて歩ける。
植物相は生気に溢れ、目に入るのは層を成す森林の美だ。冠層にはタイワンオガタマノキ、ホルトノキが枝を広げ、中間にはフカノキ アカハダノキ、リュウガンが伸び、低木から草本層にはゲットウ、ネコジャラシ、ヒリュウシダが茂る。
時にはカザリシダやオオタニワタリが絶壁に驚くべき生命力でへばりついているし、氷河時代の生き残りのヒカゲヘゴが、大きな緑の傘を広げる。
歩き続けると、世界には豊かな陽光に照らされた緑しかなくなり、禅の境地に入ったかのような軽やかな平静に辿りつく。吊橋を渡り、ゆれながら深い谷を見下ろすと、タロコ渓谷の奇岩もかくやの岩と谷川の美がとびこんできて、すべての俗事を忘れて、自然に浸れる。
古道を歩くには、都会の道路を行くように道路標識やキロ数を頼りにする訳には行かない。自分の目耳、足を頼りに、全身の五感を広げて、古道の無言の言葉を感じ取ろう。
南澳古道基本資料
管轄:林務局羅東林区管理処
位置:宜蘭県南澳郷金洋村
長さ:3キロ
難易度:平坦で歩きやすい。
見所:南澳南渓、吊橋の遺跡
交通:蘇澳から台9線で南澳郷に入り、金洋村から宜57道路を西に向う。神秘湖の分れ道を直行して下り、南澳南渓右岸の産業道路を11キロ行くと、古道の入り口に達する。