耕して種をまく
最初の1軒から次々と広がって今は60軒、草悟道でチャンスを見出したのは范特喜だけではない。地主や建設会社、デザイナーもここに契機を見出し、古い家屋のリノベーションが大きな流れになった。
さまざまな専門分野の、興味や志を異にする人々が集まれば、次々と化学反応が起る。店舗同士の異業種コラボレーションが成り立てば、マーケットも広がっていく。
各店舗の経営が持続し、成長していけるよう、范特喜は起業家育成などのインキュベーションの概念を取り入れ、専門家による講習会を行ない、各店舗にコンサルティングサービスやカリキュラムも提供している。
范特喜は、これら店舗のミドルマン(賃貸中間業者)に似た役割を果たしているが、家賃収入だけでやっているわけではない。この一帯の家賃は高騰しているが、范特喜では今も家賃を比較的安く抑え、店の売上から一定の歩率を徴収する方法を採用している。店舗の売上が伸びれば、范特喜の収入も増えるということで、それが長期的な経営につながる好循環を生んでいる。
都市再開発と町づくりにインキュベーションの概念を融合させたメカニズムが、各界の注目を浴びることとなり、今では台中市の清水、新竹県の関西、宜蘭県の烏石、雲林県の斗六など、各地で范特喜が改造したコミュニティを目にすることができる。
韓国ソウル大学社会学科の教授が視察に訪れ、大陸の北京大学も范特喜との協力を進めている。台湾の裏通りのコミュニティと北京の胡同(フートン)文化と結び付け、旧市街地を活性化したいと考えているのである。
「あなたの生活は、私が遠路はるばる見に来た風景である」——鍾俊彦は自分の好きな言葉を通して范特喜の理念を言い表す。平凡で真面目な暮らしのあれこれこそ、多くの人を惹きつける美しい光景なのである。ビルが立ち並ぶ都会の喧騒の中、ひとつ、またひとつ生命を取り戻した古い家屋が暖かな光を放ち、記憶と歳月に満ちた古い壁を照らしているのである。
范特喜は草悟道一帯にライフスタイル・コミュニティを築き上げた。新手書店の入り口に立つ標識は、リノベーションされた店舗の方向を示している。
人気の高い日系のアイスクリームショップは、ショッピングモール内ではなく、裏通りに店を開き、新旧が共存するこのエリアの雰囲気に溶け込んでいる。
偶然から誕生した1号店にはさまざまな店舗が入っている。日系のスイーツ、小規模農家のショップ、それにイラストレーターやファッションデザイナーも入居している。
緑光計画でリノベーションした水道会社の宿舎。老樹や屋外の開放的な空間を残しつつ、全体の質感は大いに高まっている。
草悟道一帯に漂う文化的ライフスタイルの雰囲気こそ、多くの人がこのエリアを訪れる最大の誘因である。
草悟道一帯に漂う文化的ライフスタイルの雰囲気こそ、多くの人がこのエリアを訪れる最大の誘因である。