専用列車で楽しむ 支線やリバイバルトレインの旅 支線やリバイバルトレインの旅 文・曾蘭淑 写真・莊坤儒 翻訳・松本 幸子 10月 2025 中文 EN シェア 内湾線には、美しい自然や文化、ノスタルジックな魅力がある。 旅先で自転車やバイク、車などをレンタルするのはよくある話だが、なんと列車も借りられるのをご存知だろうか。台湾鉄路公司(以下「台鉄」)では、旅行代理店や鉄道ファンの団体、それに政府機関などが列車をチャーターできるサービスを提供している。鉄道を愛する人々に楽しんでもらおうと、蒸気機関車などの特殊な列車を平渓線や内湾線といった支線で走らせており、一般列車は止まらない駅にも特別に停車するなど、特別な鉄道の旅を準備している。しかも客は発車に乗り遅れまいと慌てて急ぐ必要もない。専用列車だから客がそろうのを待ってくれるのだ。そしてその列車の走るところ、決まってカメラを構えた人々が待ち受けており、まるでスターさながらの人気ぶりだ。 「内湾線を運行するR113莒光号専用列車が間もなく発車いたします。本列車の乗車券をお持ちでない方はご乗車いただけません」というアナウンスが意味する特別な内容を、もしあなたが鉄道ファンなら聞き分けるだろう。通常なら莒光号(急行に相当)が内湾線を走ることはないからだ。 内湾駅での「転車台ショー」を見るために、わざわざ台東や南部から駆け付けた鉄道ファンも多い。(王照文撮影) 最も人気の「転車台ショー」7月のある週末、莒光号R113が内湾線を走っていた。これは鉄道ファンのFacebookグループ「台湾鉄道文化意象」が催したイベントで、台鉄の5両編成の莒光号を貸切り、内湾線の旅に出かけたのだ。「莒光号が内湾線を走る」というニュースは鉄道ファンの間に広がり、沿線にはいわゆる「撮り鉄」たちが望遠レンズを構えて待ち受けた。また最も人気だったのは内湾駅での「転車台ショー」で、それを見るために台東や南部から駆け付けた鉄道ファンも多くいた。内湾線は単線であり、内湾駅の敷地も狭いため、列車は前後どちらからも運転できる編成でなければ折り返し運転ができない。そのため台鉄では、高雄車両基地で使われずに残っていた転車台を修復して内湾駅に設置し、列車が方向転換できるようにしたのだ。転車台が駆動する風景はたびたび見られるものではない。鉄道ファンたちが充分に楽しめるようにと、転車台を制御するスタッフは左へ2回、右へ2回と、幾度も車両を回転して見せてくれた。 台湾鉄路の列車貸切りを申し込んだ「台湾鉄道文化意象」の代表‧鍾濬豊さんは、小学生の頃からの正真正銘の鉄道ファンだ。(曽蘭淑撮影) 通にはわかるYouTuberチャンネル「Kuteeboy」で鉄道の旅について発信する鄭皓允さんはこう説明する。「ディーゼル機関車の莒光号」と聞いても特別に感じる人は少ないかもしれないが、今や台湾では鉄道の電化が進み、ディーゼル機関車が引く莒光号はほぼ見られないため、とても貴重なものなのだ。ディーゼル機関車のそばで記念にとエンジン音を録音する鉄道ファンも少なくない。集集線や内湾線などの支線はまだ電化されておらず、内湾へは通常、支線を走る普通車に乗り換える必要がある。だが貸切りの専用列車の場合は新竹駅で機関車をディーゼル機関車に付け替えるため、鉄道ファンにとっては、また一つ「機関車交換ショー」が楽しめるというわけだ。交通機関をテーマとして発信するYouTuberのChalisさんもこう言う。電化が進んで珍しくなった機関車交換の風景が見られることも専用列車の旅の魅力の一つだし、それに新竹駅から乗り換えずに内湾まで行けることも、旅の高級感を増していると。同様の観光列車に日本で乗ったことのあるChalisさんは、このタイプの旅は外国人観光客に適していると指摘する。自分で旅程を組む手間がはぶけるし、同じ列車で各駅を回る旅ができるからだ。台湾の支線の中でも特に集集、内湾、平渓の3線は、その地域特有の文化や歴史が色濃く残っており、鉄道という異なる角度から外国人観光客が台湾を理解できるという。 鉄道ファンのFacebookグループが催した「夏遊内湾‧漫歩山城」で、参加者は専用列車でのハイクラスな旅のムードを味わった。(王照文撮影) 四季折々の風情Facebookグループ「台湾鉄道文化意象」は、中学生から社会人までの鉄道ファンからなる。代表の鍾濬豊さんによれば、5両編成の莒光号を貸切るには約9万8000元余り必要で、最初は人が集まるか心配だったという。ところが宣伝のおかげでグループメンバーだけでなく、特に鉄道ファンというわけではない人も集まった。台鉄に貸切りの申請をした鍾濬豊さんは、実は新北市汐止区にある青山中学の2年生だ。小学生の頃から列車が好きで、最初はスマホで列車を撮影していたが、中学生になってきちんと撮影を学んだ。来年は台湾の代表的な巡礼行事「白沙屯媽祖進香」に合わせ、専用列車の旅が組めればと考えている。媽祖の神輿が進むコースに合わせ、その付近の駅を列車で巡るものだ。今回の旅「夏遊内湾」では、鉄道ファンではない客のことも考慮し、途中の鶯歌駅で1時間停車し、最寄りの新北美術館や鶯歌の古い商店街に足を延ばせる時間を作った。また山佳駅には鉄道公園もある。内湾線は本来、樟脳や木材、石炭などの産業のために開通させた支線で、こうした産業は徐々に衰退したものの、やがてそれらに代わって観光業が同線に再び活気をもたらした。内湾の商店街は、地元の特産品やB級グルメを楽しめるスポットになっている。内湾の2~3月には、カンヒザクラ、ヤエザクラ、ソメイヨシノが満開になる。内湾駅近くの遊歩道や内湾吊橋、林業の遺構「木馬道旧遺址」などを散策できる。 莒光号が内湾線で停車していれば、それは専用列車だ。専用列車は乗客がすべて乗車するのを待ってくれる。(王照文撮影) 劇場や教室にもなる専用列車2024年に台鉄が受け付けた専用列車の申込みは合計319本だった。EMU3000型自強号や、台湾を一周できる普悠瑪自強号も貸切りができ、人気の高い内湾支線は莒光号が走る。鉄道ファンの団体や企業のほか、政府機関も専用列車を利用して特色あるイベントを催している。台南・嘉義県市共同開催の夏至芸術祭では専用列車「移動劇場」が運行された。新営駅から斗六駅まで走る列車の中で没入型演劇が催され、乗客も主体的に演劇に参加できた。ただ、いったん乗車すれば終点まで劇場を出ることはできないという欠点はある。国家科学及技術委員会では毎年「台湾科学普及台湾一周列車」を走らせ、今年(2025年)はすでに10年目だ。この列車は台北を出発して反時計回りで台湾をぐるりと回る。各車両が移動する科学教室となり、事前に参加申し込みをしていた先生や学習者が各駅で乗り込んできて、科学のおもしろさを探索する旅を続ける。 内湾戯院は台湾ではもはや数少ない、ほぼ完全な形で残された木造建築の劇場だ。レトロな雰囲気にあふれている。 支線で直行ほかにも台鉄では、乗客が途中の駅での停車時間を利用して観光地を楽しめる「クルーズ式列車」を支線で不定期に運行している。例えば毎年2月の桜の開花期に運行する莒光号は、E503電気機関車と、鉄道ファンが「クラシック・ディーゼル車」と呼ぶR112機関車を両側に連結している。新竹、竹東、内湾などの駅で停車し、下車して観光してきた乗客を再び乗せて出発する。内湾駅では例の「転車台ショー」も楽しめる。不定期運行の「ディーゼル鉄道の旅」では、台北を出発して宜蘭線の猴硐駅や平渓線の十分駅を巡るが、やはり「専用車による直行」が売り物で、乗り換える必要もなく、支線の魅力が満喫できる。2013年、台鉄のCK124蒸気機関車と日本のJR北海道のC11型蒸気機関車が姉妹SLの協定を結んだ。いずれも高い人気を誇る蒸気機関車で、日台の友好関係の象徴となった。CK124蒸気機関車は、日本車輛製造株式会社が1936年に台湾用に製造したもので、今も台湾に残り、かつ運行可能な蒸気機関車の一つだ。鉄道ファンにとっては最も代表的な機関車であり、昔を懐かしむ旅によく使われている。2014年からは、クルーズ式列車の「仲夏宝島号」が毎年7~8月の3週末を選んで運行されている。「蒸気機関車の女王」の異名を持つCT273が6両編成の莒光号を牽引し、花蓮県玉里から台東の間を走る。煙をモクモクと上げ、汽笛を鳴らして走る姿に、多くの鉄道ファンが心を躍らせるという、毎年夏の一大イベントになっている。途中の停車駅には特色ある駅が少なくない。例えば、木造穀物倉庫のような外観の池上駅、関山の旧駅舎や旧宿舎、そして作家の劉克襄が「伝説の、たどり着けない駅」と称した山里駅と駅前にたたずむ小さな白い教会などを回れる。 内湾駅は民国50~60年代(1961-1980年)の建築スタイルを留めており、往時を偲ばせる。 列車とともに新たな発見2025年から不定期に運行されているのが「藍宝宝DR2400型文化クルーズ列車」だ。青に白いラインの入った列車は「藍宝宝」の愛称で親しまれ、多くの人がかつて学生時代や通勤に利用していた。天井には扇風機もあり、年配者なら昔にタイムスリップしたかのように青春時代の自分を思い出すかもしれない。YouTuberの鄭さんは自分のチャンネルでの「神秘の列車」シリーズで、格別な列車の旅の経験を紹介している。例えば、台北から高雄まで区間快車(快速)で行けば料金はたったの531元(2025年には640元に値上がりした)で、自強号(特急)と同じ速さが楽しめるという。「鉄道の旅は、貴重な体験が安価でできます」と、台湾の鉄道の全線に乗ったことのある鄭さんは言う。例えば台湾最南端の南迴線では、山間を走ったかと思えば次の瞬間には目の前に大海原が広がり、乗るたびに感動するという。彼はいつか、台湾の小さな駅や辺鄙な所にある駅もすべて訪れたいと考えている。思いがけない旅となり、新たな自分に出会えるかもしれないと期待して。鉄道ファンにとって、すでに引退していた列車に再び出会えるのは心の躍る出来事だ。特定路線限定の専用列車や昔懐かしい蒸気機関車に乗り込み、台鉄の駅弁を食べ、記念切符を集める。そうした鉄道の旅で、無限に広がる風景を味わってみてはいかがだろう。莒光号専用列車は特別に鶯歌駅にも停車したため、乗客は新北市美術館にも足を延ばせた。緑に囲まれた内湾吊橋からは、油羅渓の美しい景色が楽しめる。7~8月に花蓮県玉里から台東間を走る「仲夏宝島号」では、煙を上げる蒸気機関車の旅ができる。(台湾鉄路公司提供)台鉄の排骨(パイコー)弁当を食べるのは、鉄道の旅での最も恒例のイベントだ。(王照文撮影)美しい自然や豊かな客家文化の魅力を備えた内湾線にはノスタルジックな味わいがある。(林格立撮影) キーワード: 列車 鉄道 台湾鉄路公司 蒸気機関車 ディーゼル機関車 内湾 専用列車 莒光号 支線 転車台 観光列車 観光 旅行 レジャー 趣味 機械 写真 輸送 シェア