高等教育の交流
華語教育だけでなく、学術界において「華人の言説」を確立しようとする今、台湾との密接な交流やつながりは不可欠だ。
マレーシアの華語教育にとってメルクマールとなったトゥンク・アブドゥル・ラーマン大学は2002年の設立、当初はわずか8学科、学生411名で始まった。「マレーシアでは1996年に私立大学法が制定され、大学設立には高等教育担当大臣からの招聘が必要となりました。2001年にマレーシア華人協会は招聘を受け、ラーマン大学を設立しました」と同大学の蔡賢徳学長は語る。
現在ラーマン大学では、110余りの学科に約2万6000人の学生が学ぶ。特に中文学科はマレーシアで最大、学部生と院生を合わせ400名以上の学生が在籍する。大学院「中華研究院」は、マレーシア華人及び文化研究、現代華文文学研究、漢学研究、当代中国研究、芸術研究、閩南文化研究のコースに分かれる。同大学は華人運営の大学で、学生の9割以上が華人だ。「我々には華人伝統の知識を残すという使命があり、国際言語でもある華語を失うわけにはいきません。ほかにも、東南アジアにおける華人移民の歴史や背景、要因、貢献などを記録したいと考えています」と蔡賢徳は語る。
ラーマン大学の進めるプロジェクトの中でも、「華人新村プロジェクト」は注目に値する。華人新村は、1950年代に作られたマレーシア華人の集落だ。当時、華人がマレーシア共産党ゲリラと接触することを恐れたイギリス政府は、華人居住区をいくつか作り、10年間にわたって行動の自由を厳しく制限した。
この歴史を掘り起こすため、ラーマン大学の「華人新村プロジェクト」は2009年にスタート、学生たちによるフィールド調査が華人新村で行われた。これは近隣諸国の賛同も得て、シンガポールや日本、韓国などの学術機関も参加、台湾からも清華大学、台湾大学、逢甲大学が加わった。「ほかにも我々は金門大学、成功大学、アモイ大学と共同で؛ش南研究を、交通大学とは客家文化研究を進めています」と葉賢徳は言う。
積極的に国際化を進めるラーマン大学は、台湾とも密接なつながりを持ち、台湾の40以上の大学と姉妹校関係や交換学生制度を提携し、ダブルディグリー制度も交渉中だ。
50年前、台湾は多くのマレーシア人学生にとって人生の夢をかなえるための地だった。長い年月を経た今でもその交流は途切れず、「新南向政策」を進める台湾にとっても、マレーシアは人材交流の最も盛んな国である。だが方俊能はこうつけ加えた。「新南向政策に限らず、台湾とマレーシアの教育交流は、中華民国の外交の実力を示すことにほかなりません」
マレーシアの華語教育に重要な地位を占めるトゥンク・アブドゥル・ラーマン大学。(同大学提供)
台湾留学経験を持つマレーシア人は、同国における台湾の重要な盟友と言える。教育交流によって「新南向政策」が着実に推進され、東南アジアとの人材交流が深まっている。