次世代へつなぐ
福岡に到着した日の夜、ちょうど駐福岡弁事処の処長公邸で音楽会が開かれていた。
音楽会を企画し準備したのは九州台日文化交流会の本郷啓成(呉啓成)氏である。基隆鉱工病院の院長で声楽家の劉立仁氏、在日声楽家の吉川千巧(林千巧)氏、そして福岡の歓喜合唱団が招かれていた。音楽会には株式会社大島組の大島英二会長や新聞記者も集まっていた。この音楽の宴では、日本語、中国語、閩南語、イタリア語などが飛び交い、最後は全員でテレサ‧テンの「時の流れに身をまかせ」の大合唱となった。
本郷啓成氏は台中出身、家族の多くは歯科医である。30余年前に日本へ移住して福岡に居を構えた。夫人の本郷みどり氏も歯科医で、夫婦は一緒に早良区で開業。早くに日本で「予防歯科」に触れ、治療より予防という考えを重視してきた。本郷啓成氏は妊婦を対象にした子供の歯科指導も行なう。「妊娠4~8週間で乳歯が発達し始め、4ヶ月で永久歯の基礎が形成されるので、母体は最良の状態を保たなければなりません」と言う。町の歯科医であり、親子四世代にわたる患者も多い。専門分野を活かして日本の地域社会との親睦を深めている典型的な事例と言えるだろう。
本郷氏は音楽愛好家でもある。敷地百坪の日本家屋の別荘には、夫婦で集めたアンティークが収められており、その空間を台日交流活動の使用に提供し、国境のない音楽を通して文化交流を推進している。さらに刊行物『台日草の根』を発行して活動を記録し、日本の人々に台湾をもっと知ってもらおうとしている。
「台湾と日本との間にはこのように良好な関係があるのは、年配の方々の努力によるところが大きいのです」と戎義俊は言う。日本の若い世代は台湾のことをあまり理解していないと感じ、戎義俊は国立九州大学に「台湾研究講座」を開いた。さまざまな分野の学者を通して台湾を紹介し、日本の若い世代に台湾への理解を深めてもらいたいと考えている。
陳忠正も駐福岡弁事処の処長に就任した後、若い世代の台湾に対するイメージ確立と相互交流の強化に努めている。近年は、日本の高校生の海外修学旅行の目的地として台湾が選ばれることが多く、アメリカを抜いてトップになっている。陳忠正によると、2017年の日本の統計では、325校の約5万4000人の生徒が台湾に修学旅行に来ている。駐福岡弁事処は早くからこの趨勢に気づき、台湾修学旅行説明会を積極的に開いてきた。今年、熊本で開いた説明会はすでに5回目となり、李杰宏秘書は、日本の多くの若者が台湾を旅することで、青春の日々の記憶に台湾を残してほしいと考えている。
台湾と日本の間には歴史的な縁があるが、困難に直面した時こそ真の友情の価値がわかる。2016年の熊本地震の際、台湾はさまざまな支援をした。2018年4月18日の花蓮の地震の翌日には、駱慧娟は同じビルのオフィスに勤める日本人から地震被害を聞かれ、どこへ行けば寄付ができるか訊ねられた。東日本大震災からすでに8年になるが、当時の台湾からの支援に対して今でも多くの日本人から感謝され、かえって恐縮してしまうほどだ。本郷啓成氏は「あなたが片手を差し出すと、相手は両手でそれを握ってくれます」と語ってくれた。このような友情が永遠に続くことを心から願いたい。
駐福岡弁事処の陳忠正処長は日本の若い世代と台湾との交流を推進している。
福岡で起業した廖聡哲さんは、ゴルフ場経営にテクノロジーを導入するビジネスを展開している。
南廻線と姉妹鉄道の関係にある肥薩おれんじ鉄道。両者ともに海沿いの美しい景色の中を走る。
本郷啓成氏は歯科医として日本で地域住民と良好な関係を築き、音楽を通した台日交流を推進している。
処長公邸音楽会では、国籍や言語を越えてともに音楽を楽しむ。左から5人目は、基隆鉱工病院院長で声楽家でもある劉立仁氏。
海を越えて結ばれた台湾と九州の絆。写真は保存修理工事が完了したばかりのJR門司港駅。