一期一会の季節料理
一方、篠原有紀子さんと「去去高雄 chill chill Kaohsiung project」が協同で開催する「節気食旅」も、宮崎の台湾塾がきっかけで始まったプロジェクトである。
関西出身の篠原有紀子さんは、身のこなしもエレガントで、日本女性らしい優しさを感じさせる。ご主人とともに宮崎に移住してから野菜ソムリエとなったが、農家の人々が自分の子供のように作物を育てているのを見て、生産者と消費者の間を取り持つ者として、より気を引き締めて仕事に向かうようになったと言う。
彼女は宮崎県産業振興機構の委託を受け、生産者のために食材の魅力をいかに発揮するかを考えつつ、レシピを開発することとなった。そうした中、台湾塾を通して「去去高雄」を創設したNatoとTristaに出会い、一緒に「節気食旅」を開催することとなり、食材の探索が始まった。
「故郷の高雄を英語の一言で表現するとすれば『chill』です。高雄の人は、流行はあまり気にせず『自分らしさ』を大切にするのです」とTristaは「去去高雄」という名称の由来を説明する。二人が経営する民宿の宿泊客の多くは外国人で、彼らに故郷をどう紹介するべきか考えていた。そこで一緒に市場を歩いて料理教室を開き、高雄の味を知ってもらうとともに、環境にやさしい農業を実践する小規模農家を紹介しようと考えた。こうして「節気食旅」を通して、高雄の旬の食材を見出し、食材の背景にある物語を紹介することにしたのである。
毎回、NatoとTristaが旬の食材を提案して台湾人の味の好みを伝え、篠原有紀子さんは、その食材を日本風にアレンジしたら台湾人は気に入ってくれるかどうか考える。
今年の夏は暑く、「節気食旅」ではショウガを扱うことにした。まずNatoが、質の良いショウガを探した過程と、小規模農家で一緒に収穫した経験を語り、続いて篠原さんが料理を教えていく。まず、新ショウガを薄く切って熱湯をかけ、水分をふき取ってから瓶に詰めて甘酢漬けにする。さらにショウガご飯やジンジャーエール、ショウガとニンジンのドレッシングをかけたサラダなども作った。
篠原有紀子さんは年に数回の台湾での料理教室を楽しみにしている。料理を通して友人たちと触れ合え、台湾についてより深く知ることもできるからだ。
5年余りにわたり、NatoとTristaは篠原さんの目を通して故郷の良さを再認識してきた。「高雄にはあまり季節感はありませんが、それでも気を付けていれば、温度や湿度や風など、日々の変化に気づきます。有紀子さんの料理スタイルは茶道の影響を受けていて、『今この時』を大切にするので、味付けより食材の季節感を感じさせてくれます」とTristaは言う。
「節気食旅」は5年目を迎えた。彼女たちはこれまでに、春のトマト、夏のみかんやレモン、秋の栗、冬の大根、それに梅やキャベツなどをテーマとしてきたが、今後はさらに日本では生産されていないパパイヤやブンタンなどの食材も扱うということで、台湾の食材と日本料理の一期一会がますます楽しみである。
篠原有紀子さんにとって、台湾野菜のキーワードは「元気」だという。